蝶の鱗粉
指先の黄色を
半ズボンの裾で拭く

土鍋で飯を炊く
吹き零れる瞬間を待ち
白から透明になりゆく
米とわたし

少女が四人
閉じたチューリップのように
頭つきあわせ
誰かが秘密を打ち明ける

リボン
解けて落ちて信号はまだ青で
なのに
もう取りに行かないのね
わたしは

水泳バッグを蹴り蹴り歩いた
あの時のうなじの熱を
今なら孤独と呼ぶだろう

小説を読んでるうちに
日が暮れて
薄闇の部屋は
ニベア缶の青

畳の上に
脚をにゅうにゅう投げ出して
台所のトウモロコシのこと
考えていた

ダンゴムシは
丸く身をちぢめて死ぬのだな
ころころと
風に乗りやすい
かたち

まどのすきまから
とうめいのへびみたいに
かぜがするする
はいってきたよ

山羊の眼と珈琲豆は
やけに陽気で哀しいし
空なんか
馬鹿みたいに高いだけ

クラスの子みんな
大好き
な猿

野球部の安藤が轢かれたのって
ラブホの駐車場やって
すごい大人やん安藤

葬式の帰り
妹まだ泣いてて
わたし
田んぼ数える

こどもの泥玉砕いて夕飯

ほっとくと鳥になっている子供

カマキリの結婚式を挙げる姪

ママ、おんぶして
って母が泣いて言うから
私は母をおんぶする

じゃあお母さんが
おにんぎょう役ね

卒業アルバムで
笑ってる方の佐藤が
死んだ方の佐藤

むずかしいかんじを
しらなくてごめんなさい
でもこれは
うつくしいうみ

友人と云うには遠い人の自死

目覚ましの音より早く目が覚める
今日はあなたとさよならする日

薄い胸の中に宇宙を飼いならし

自らの首に縄をかけるとき
やっとあの人の気持ちがわかる

月の夜きみを迎えにゆく魚

ペンギンの眠る駅まで逃避行

霧中を駆け抜けるための赤い靴

冬薔薇 切られたあとの赤い茎

魔法瓶の魔法がとける時間頃
お茶しませんか 猫舌の君

並木道
落ち葉の乾く甘い香は

亡き祖母の居た部屋に似ていて

象徴が横断歩道で死んでいる
この場合だと象徴は鳩

自販機に信州そば茶があるだけで
守られていると思える

醜くも美しくもない人たちと
レジに並んで順番を待つ

目が覚めて、
まだ許されていたいから
俯瞰で痒いところを探す

安かった鶏むね肉の状態を
気にかけながらする遠回り

パック寿司に
値下げシールが貼られてく
儀式をみんなで見守っていた

東京に埋もれちゃってるおじさん
の骨を拾ってあげたい、全部

ある日から車を恐れぬようになり
数日後には死んでしまった

先輩が日高屋のドアに挟まれて
ぼくらの星はまだまだ遠い

珈琲をこぼした時に
君の言う
すごくきれいな川を見たんだ

取れそうなささくれ取らぬ春の暮

麦わら帽逆さに持つと軽くなる

山肌に墓石ささっている四月

炎天の足裏の影と支え合う

解いた折り鶴を戻せなくなる

焼きそばの皿に胎児のようなえび

遠雷よ水子は兄か姉か

行く春に食器重なる音一つ

少し開く金魚のえらに真の闇

短日のうどんぽろんとざるを出て

焼きプリンの底に
夏を追い払う
月が潜む

星を見渡すって
給料日前に
残った小銭を
机の上にひろげるみたいだね

青い静寂が
咥えタバコで
哲学していた

幸福とは
深爪した親父が
缶ビールを中々開けれず
なお　微笑むあれだ

僕の小さな世界は
くしゃみやしゃっくりの
風力発電で動いてる

猫が座禅を組む
側で
僕は尻尾を立てている

逆立ちする犬
群がる信者たち
DOG GOD

母が見せてくれた
僕の母子手帳は
まるで詩集のようだった

僕は陶然とした不老不死の蝉

SALE!　を
去れ！　と
読んだあの子は無事
反消費主義に育った