梅雨時の日差しの白さ

図書室で二人並んで窓を見ている

古井戸に投げた小石の音を聞く
空蝉ひろい持ち帰る夏

息子からオモチャの剣で
斬られてる
明日は早朝会議のある日

あの日
うさぎ小屋の鍵をかけ忘れたのは
私です

耐えきれず湖で泣く
母さんが祖母を母さんと
叫んでいる

遺伝子の青の部分を吐き出せば
閉じられてゆくいくつかの窓

ブランコを立ち漕ぎしたい
寂しさは揺らせば
消える
そんな気がして

目の奥に静かに潜む傘があり
閉じれば涙が溢れてきます

まだ満足に歩けない子が
ゆるやかな
カーブを曲がるようなかなしみ

美しい訛りで
夜を見渡せば
色づいていく
おかえりの声

命がないから
あんなに
からみあう ケーブル

花の名を
たくさん知ってる
いじめっ子

ルリタテハ
入道雲をくいとめて

脚の長い蜘蛛だけが
約束通りに来てくれました。

腕時計になる。

夜の空を飛ぶ。

老女のてのひらに
星月夜　と
書いてありました。

カーテンは
かなしいことを
うらなえる
わたしを巣立つ子の
数などを

ワンピースは
いつも長くするの
空から落っこちてくる
子どもたちを包むために

米を研ぐとき
わたしは神につかえている

炭酸のはじける泡のひとつぶで
これからだってただのひとつぶ

砂浜の
読んではならない部分を歩く

私家版を撫でて一日を終わらせる

遠い比喩引き寄せ白木蓮が咲く

鉄塔に展翅されゆく春茜

三月はキリンもまつ毛まで眠る

歌集読む春の付箋紙買い足して

春昼にアスパラガスの湯気光る

きらきらとネーブル転げ落ちる坂

炭酸を今日は振らずに手渡した

左手に異なるひかり宿らせて
並行という永遠をゆく

ひかりたつ動物園の外側の
ホモ・サピエンスの
エリアで暮らす

みんなちがってみんなだめ

江戸時代海だった街に住み着いて
わざわざ電車で海を見に行く

寂しいと発光する
赤ちゃんを孕んだので
私のお腹はいつも
ぼんやり光っている

人って死ぬと水族館に行くらしい

耳の奥で
雪が降っているような静けさ

朝焼けが来れば僕らは気が触れる
破れた履歴書花束にして

駅前のゲロを跨いで私たち
これからずっと森で暮らすの

走る人みんなが耳を冬にして
沈んでゆくんだ町の夕暮れ

こわい人もその一日の終わりには
ふとんに入るのだからかわいい

迎春の
ちゃちなフォークで食うパスタ

立春の鳴かせてもらえない薬缶

春に蓋してワセリンの厚くある

怒ってる肩が春満月みたい

寝て起きて詩を吐いて寝る蝸牛

首振れば母星を回す扇風機

ここだけの話こすもすだったのよ

爽やかな歩幅に進む車椅子

二日酔いの息のてらてら秋の海

冬晴の引っ張る力　腹が減る

なにが足りなくて烏

友と書くとき
二対一に分かれるはらいの行方

約束は遠くでよろしくやっている
稲穂と並び揺れてたりする

雨の日の唐揚げのじゅわ

妹の眉毛をととのえてやり知る秋

蝿が首元を通り過ぎた　
光はあっち

春だねだったか針金だったか
言いのこして消えた

しりとり、の次はりんごの帰り道

波打ち際まで来た　海から

素麺の素の字に惑わされて私たち

拝啓と書いて頭をあげるとき
あなたのように動かない月

お土産のことで電話をした最期
そのままあなたへ向かう郵船

梨を剥く
あなたはいつも騙されて
騙されるとき目を閉じている

つるつるって
おでんのたまご吸うときの
どこかでおかしくなってる時空

生きていたねこの心地を思うこと
ねこのいないソファーの布溜まり

ねこいっぱいの空地に寄って
ひと休み
あなたにはわからない心の話

天国の心あたりを聞くように
プールの底へ触れたゆびさき

犬小屋に
あの子がいなくなってから
初めて吹いてきた春の風

それをする　ふつうに泣くよりも
わたしを失わない泣き方がある

思い出せる順にわたしが話すから
あなたにうまく並べてほしい