小説が読めないことを
庭の明るさに喩えたら
その庭にしばらく夏の雨

水の店には水の客
買い物は
死んでからが本番だから

滝がくずれる音を
聴いていると
この身体にも飽きる暁

さびしさを言うときの
語彙のとぼしさは
夕暮れに皿を洗うように
研がれている

霧　何もみえなければ
するどい字幕のように
それこそが
僕の呼吸とおもえ

電話がまだ
うつくしかった季節に
よく靴を磨いた

最後に図書館が生まれて
それから僕が朝顔を
覚えるまでの暗い道

鯨の口の中は
きれいな時間割だから
五分前行動の子供たちと
千年を老けてゆく

水糊のような夕に石段を登る
振り向きはしない
詩的すぎる街があるから

会いたいと同じくらい
会えなくていいと思う
林檎しゅかっと囓る

手の
はなびらを
風の中に
もどす

さえずりは
ひかりのみずを注ぐように

段ボール持つ
りんごの重心を集める

梅雨時の
霧雨の中の

逃避

雨後の森
すこし
暗くて
母胎めく

人は
木から
ことばを奪い
紙に書き継ぐ

本屋には死角が欲しい
棄てられた文字
あつまって
蛍になるから

バリケード越え難民となる春の雪

ゲーセンに卒業の花抱え入る

結局は手押し相撲をみる花見

ひかりが恋しくなるくらい
暗いところに綴じ込めた
心はやがて宇宙になるよ

私の肌の中

眠る貝殻よ

キーボード、
青春に鍵をかけてくみたいに叩く

向かいあう
矢印たちのまんなかの
空洞こそが
愛なのですよ。

輪郭を求めています
あなたに触れられて
曲がったままのまゆ毛

閉じ込めておいたんだ、
さなぎの中へ
光が朽ちぬように

私という結び目を
沢山、つくりすぎると
音が滞ってしまうよ

かかとから私が消えてゆく浜辺

身体から妙な音がして
腰かけるほとり
命が淡くなる匂い

匿ってくれよ。
匂う夕陽のさみしさは、
ため息たちを包むつぼみだ

花粉立ち昇るホルンのふくよかさ

沈丁花顔の掠れた社員証

春雷を聴く銀色の糸通し

裸婦像に静脈走るにわか雨

梅雨明けをぬぬと回転するケバブ

銀座ウエスト皿のパセリに光る塩

きうきうと鳴く長茄子の袋詰め

お母さん朝顔咲いたから起きて

洞窟の壁画は秋の願い事

退職のブーケの蕾だった薔薇

ぬくい　　粘土
の　　　ように
手のひら　　に
眠た　　　　さ。

昼は
ピーマンの中でいう
朝

理科室の
　むこうに雨が降る
理科室は静か

サイコロの１の目
　くぼんだところの、
　　東京

王権の象徴としての色鉛筆

紅葉する森の中
水溜りに
油膜が浮いていて
秋
の面積

毛細血管を巡るように
慎重に眠りながら
大学に行き、
帰る

ホルンの曲線
ぼくは立ち上がる

夕方
口を開く、
名付けるために

夜、
椅子を置く
夜になる私の心に

窓際で大きな犬が見つめてる雨の
全速力のはじまり

少しでもあたしに似ている人
みんな行き場をなくしていく物語

求めてもいない小さな願いまで
叶えてくれる人のまぶしさ

絶景のために私が目立たない
旅の写真の意味おもしろい

夕焼けを眺める人の目の中に
抜け道があるかもしれないよ

生きている花束を見た
わからないかなしみが
君にもあるのかな

休みの日のわたしみたいに
ひとしきり嘆いているような
鳥の声

すやすやの気持ちあふれて
すやすやの身体になっていく
夕まぐれ

意味のない歌詞なら
いくらでも聞ける
わたしの弱い心のために

お茶碗をやさしく持ちあげる影が
やさしく持ちあがる　夜だから

七月のそれは大事なメロンパン

いいハムも棄てる亡父の冷蔵庫

花火を隠す大きな老人ホーム群

鶏頭と芙蓉が咲いて帰ります

実家、窓、アジフライ、
という夢日記

all you enemy
傷つけて匂う花

いつか死ぬけど今
じゃないから花見

せつせつと石鹸玉吹く部屋のなか

箱舟は全員故人ならいいか

春の舟秋田犬のみのせてゆく

治らない怪我もあります
大陸も 元々一つだったらしいし

夜側の足を浮かせて
少しだけ
お昼を長くするフラミンゴ

廃ビルの螺旋階段
ゆっくりと呼吸をしてる
龍なんだって

透明のゾウは
五万といるんです
駐輪場の屋根の上とか

実は今
あらゆる町のクレーンが
二足歩行で踊ってるんだ

とかげのしっぽ
ほしい
わたしがいなくなったら
かわりに
てをふっといてほしい

わたしたち腰掛けている
生きて死ぬ
呆気のなさを
背もたれにして

あまりうまく
言えないけれど
この街は
ずっとぬかるんでると思うの

遠い海
親とはぐれた子鯨を
きゅーいきゅいい
と励ます列車

無人駅
エジプト行きを待っている
ペンギンがいる
日焼けしている

バナナ剥く
次元が変わったりもする

店先のダリアこれから住む故郷

クルトガを分解してて夏終わる

なんでかと言うとねあのね
あっ花火

マニキュアの落とし残しが
九月だな

旅人はたとえば秋の風たとえば

とりあえずおでんから始まる電話

冬眠の全部が星に好かれてる

綿虫の空が大きく暮れてゆく

いわば今日は画鋲みたいな暮の春

石鹸玉離れる地軸傾いて

山笑うゆっくりバット持ち替える

春眠の階段を折りたたむ

水羊羹優しい人の字がきれい

日焼け止め振って
水たまりの気持ち

夕立の一粒ごとにある鏡

整骨院終え秋空に白長須鯨

冬の星まだ溶けきらないハッカ飴

血液が耳まで届く冬の虹

雪降れよ星の重さが葉の重さ