胎に仔を
宿したかもと
言われた日
初雪が降りてきて
早十七年

ちょうどよい雑音がほしくて
耳たぶをこねて
夕日で焼くの

棺桶はどこでもドアの待合室

大掃除
まだ捨てられないダンボール
「夢」と書いて封をしておく

密やかに同じ罪悪感を携えて
汽車に乗り込む人々の群れ

想像の斜め上
表現の新しさに未だ驚く

昭和初期
磯野家がやってのけていた
家族のカタチ
難易度上級

じいちゃんに
小さいお手々が塗る頬紅
怖がらない子が
哀しく嬉しい

ふと触れて驚く
小さな蕾の重み
しぼんで落ちた大輪の軽さ

退屈な世界の砂浜で
蝶を埋める

持参した悲しみの音色が光る

鏡を見る僕を　覗き込む僕

手尽くせど
何もできぬとわかったら
バチが当たれと心で叫ぶ

家出した子を探すのに
慌てふためく親
屋上から眺めている子

思春期と
反抗期の圧
疲れ果て
黙々と盛る
玄関に塩

誰だって
多かれ少なかれ抱えてる
重い軽いで
はかれないもの

大きな手
くぐもった声
話すのがゆっくりな人
大好きな人

受験生
机の前には座らず仕舞い
トイレ掃除で
神頼み

大掃除
脱皮するよう
幼さを
感じるものを
ゴミ袋に入れる子

あなたについた嘘が
凍ったまま年を越す
雪解けの頃罪を償う

参拝者なき夜に鐘 百八つ

日が短くなると思う
ああ 自分も動物なんだと

手を叩いて闊歩する
響き渡るのは
手の中で破裂した空気

遠近法で小さくなる想い

十歳は
十歳なりの
歴史あり
目を細めている
十六歳の兄

肋骨に挟まる冬が泣いている

美しい声の主の顔
妄想しながら聞く
ラジオの道路交通情報

大掃除いつも新年明けてから

泣いてる私に寄り添ってくれた鳥
おかげで心身があたたまったよ

あの星も
地球も海も森林も
あたしのカラダも
ぜんぶ宇宙

朝は来る
窓を開けたら風が吹く
こちらの国から
あちらの国へ

ずっと泣かない事ばかり考えてた
明日からは
泣いた後の笑い方を考えておこう

全ての一次創作（オリジナル）は
人生の二次創作である

色んな人に
親切にしてもらった
今日という日を
ミュージカル調で思い返す

さっきから隣に寝る人誰だろう

花畑駅で毎朝下りる人

ドラゴンに似てるあなたの深呼吸

即寝れた睡眠薬がどんどんと
効きにくくなり
不安が募る

失恋を
互い二度ずつ経験し
きみとの絆
深まるばかり

東の空
明るくなるのが
ちょっとだけ
早くなってる
今年も終わるね

平均寿命をとうに過ぎた犬と
共に生きる一日一日が
聖なるギフト

遠くに見える峰
あれはヒマラヤと
言われるままに信じ想い馳せた
家のベランダ

冬至カボチャ
クリスマスケーキ
年越し蕎麦

風物詩を食べている

水がただおいしいだけの
ふるさとで涙を流して見る夕日

古びたあの日の片恋を
ボサノバ風にして聴けば
なんだか陽気になりました

レンジで無理やりではなく
常温で愛され溶ける
私の身体は
なめらかな舌触り

夜が冷たくなったので
ハリネズミを飼いたい

感情が動いて
言葉が浮かぶから
社会と関わるのも楽しい

なんだか取り残された気がして
年の瀬という言葉に
怯えてる

病持ち
初めて知った
本当の愛って
こんなにもあたたかい

積もりゆく自殺者の数 遠い春

今年はコロナで
サンタが来ない家があるらしい

子どもたちが
ソリがなぜ飛ぶのか考察
なんでだろねと話を合わす

ぺったりと
くっつきパーッと手を開き
磨りガラス越し
家守るヤモリ

粉雪はあなたを埋めるには不向き

いい人になりたいとおもう
イヴの夜
妬みひがみは引っ込んで

君の胸の角灯で
僕の暗闇を
照らしておくれ
もう誰かに売られた
この暗闇を

私たちは悲しみを背負う
権利も持っている
それは
希望を手に入れるための
助走

豪快な笑い声
でも正直な君の背中が
疲れ果ててた

動物のようだ
あなたの背を撫でる

本当のことなど判らない
わたしはだぁれ？

かなしみの各駅電車にのっている

シーソーで
かわりばんこに
手を伸ばし
空掴もうと
する子ら見てた

額を熱く感じるのは
手がつめたいから
仕方なく明日も元気に出社します

夜空がまるごと降ってきた
時の重さを天秤にかける
眠りの中で光と水が出会う

屈むのは
飛び跳ねるためじゃなくて
ちゃんと一人で泣くため

蛇行して
蛇足ばっかりの詩を書いて
蛇の夢見て
うなされてちゃ
世話ないね

猫を呼ぶあなたの背中に陽だまり

枯葉が転がっていった先から
石焼き芋屋がやってくる

本日
海馬から取り出しましたのは
金魚の埋葬
瞼に透ける春光の白と
吹奏楽の音

あたしの記憶では姉は一度だって
子供じみていたことがなかった

それぞれが
自分は行きたくないけどさ
言いつつ集う
慣例の会

スピードを
も少し下げて時間さん
加速度がなぜ
そんなに増すの

平等に与えられたというけれど
ぼくの人生　いま何時ごろ？

幸せな記憶が強く残るのは
二度と戻らぬ宝物だから

両親と
君の両親
見て育った
わたしときみは
いいとこ取りしよう

星を見に
夜中暗闇細い道
左手にぎゅっと
マース袋

例え不時着の場所だとしても
足裏に大地を感じ立っている

今ここに立っている

犬を見かけたら
話しかける
微笑みかける
変な人が多い
ここは平和な町

私の耳に
シラップのように
秘密が流し込まれる間
従姉の鎖骨の窪みを見ていた

静かなる冬それぞれに匂いあり
街角ポスト寂しさに似て

冬至すぎ
宵の口が妙に
まぶしくて
今年も終わりの
実感が募って

園長先生の朗読
本が閉じられても
その旅の恍惚と
手をつないだまま
生きてきた

大きな声の悪口は
声よりあなたの
目が怖い
心がシュンと
しぼんでく

世界地図を眺め
空想の世界も
自粛している自分がいる

こちらは雪です
あなたとの距離を知る

子供時代
臭くてヤだった近所の牛舎
深呼吸して
ただいまと言う

ほんのりと
甘くて塩くて懐かしい
ばあちゃんの練る
はったい粉の味

時々ね
胸が苦しくなるほどに
手の内に居た
子ら抱きしめたい

たばこ屋も
商店もみなシャッター下ろす
静けさも込み
正月の匂い

君にだけ見えた光
その残像が暖かさとして
残っている

脱走する
ネコに小さいカメラ付け
この子の世界を
覗き見したい

来年の手帳を買って　また、
1ミリメートル今年が短くなる

墓場まで持っていくと決めた
秘密が今日で四つめになった

重ねる時間の美しさと
止まった時間の美しさ
どちらが欲しいかと
天使が問う

今まで独り占めしてきた
孤独を君にもあげるから
だから僕のそばにいてよ

仰向けで寝ている
私の鼻先を
ショートケーキの
苺みたいに
あなたが齧る

冬服は嫌い
君の温もり思い出すから
夏服も嫌い
君と見た海思い出すから

結び目を真っ赤に染めて
泣くのを我慢するリボン

冬至来た
これから日に日に
陽が延びる
それで乗り切る
冬の厳しさ

明日はね
郵便局まで歩くんだ
細やかだけど
ぼくにとっては大事なリハビリ

テスターの
ハンドクリーム出しすぎて
硬直するぼく
チラ見する人

おばあちゃんしか
看取れなかったけど
安らかに永眠したおじいちゃん

近親者が亡くなるのは
初めてのこと
凪いだ海のような心境です

食器のダンボールに
ぬいぐるみも詰める

足元を黄色に染める葉の中に
昨夜の流れ星を見つける

わたしの心は
わたしだけのもの
でもあなたの心には
棲みついていたい矛盾

お母さん
会社を休めないんだから
風邪をひくなと
姉が言ってた

吐く息が凍る日
学校行く前に
熱いレモン湯を
飲ませていた母

きょうだいで
母の愛情や注目の
限りある牌を
取り合って育った

霜柱
先に踏んだの
踏まれたの
きょうだいげんかは
毎朝だったよ

昨日の僕が僕だという保証は
明日の君が君だという可能性
と同じくらい不確か

凍った水溜りの青空は踏めない

水深４メートルのあなたとの恋は
私が
どれだけ背伸びをしても
溺れる

姉の眉が反抗気味の朝
私の行ってきますは無視される

現実は小説よりも
恐ろしい
オトナの事情を
垣間見た少年

リース編む
円環の外に出られない
君にも君の絶望がある

線をなす極小の詩　蟻の行列

転がる毛糸玉
いつも
ほんの一瞬
永遠に追いつけないかもしれない
と過る

珈琲の湯気が
あんまり上手に
朝の光を纏うから
君のこと
忘れてしまいました

黒雲が
追いかけてくるハイウェイで
境目！とはしゃぎ
速めるスピード

ぷぅぷぅにふくらんだ雀を
飛び立たせるのは気が引けて
遠回りする灰色の小径

頑なに
できないと思い込んでいた事が
君となら
するりと現実になるのね

小児治療直後のギアチェンジ失敗
中年男性に
幼児言葉で話しかけちゃう歯科医

魔女が煮だしたみたいな
飲み物が好きなわたしと
コカ・コーラが好きな君

三日月のハンモックに
ゆらゆらゆられて
うさぎの夢を見る

鉛の明日に私の足跡を残す
窓を割ってでも光を入れて
裸足で歩く血だらけの道

心荒み
景色色褪せ
また色戻り
その繰り返し
それが人生

奈落に染まる川底
沈黙していた小石が
月の光に導かれ
水流のマントを纏う

誰のものでもない悲しみに
顔のない雨が降る
月から覗く  私の骸

冬苺 雪と一緒に食べる君

さっきまで君がいたような淡い雪

しんしんと夜に耳だけ熱くなる

絡まった光をほぐしながら
風が近づいてくる
廃墟には出口はあるが
入口はない

伝えたい言葉に似合う
息の出し方を一本選ぶ
結び目だらけの見えない糸

理解されないこともまた
私であるということ

想いが赤子なら
言葉はその泣き声か

きぬさやの
筋取りながら思い出す
床板きしむ
水屋の光景

愛なんてただの言葉と思ってた

風にウィンクして歩く朝
夢にハミングして眠る夜

輪唱の最後で皆を追いかける

冬の夜
一人で台所に立って
聞いていた生活音が
耳の奥に残っている

海ですら銀河規模なら金魚鉢

サービスエリアは
竜宮城のようで
深夜、
ざぶりざぶりと
日常が遠ざかっていく

ひとりきり

冬の空気を吸い込んで
肺の形を自覚させよう

並木道
落ち葉の乾く甘い香は

亡き祖母の居た部屋に似ていて

天高くト長調の銀杏並木

着ぶくれて
雀みたいに身を寄せ合った
ともだちから
鉄の匂いがした

幻じみた
冬の西日はいつまでも
わたしに
窮屈な舶来のセーターを
思い出させる

あなたの吐息越し
移動遊園地から見上げた
六等星の光に生まれ変わる

潮の匂いをめくって
わたしを通りぬける鉄の味が
わたしたちの正体でしょう

うっすら開いた犬の眼に
わたしが映り
ここにいるよ、と言うと
ふわりと閉じた

霜の降りた土を踏み
生きていたら二十歳、と
犬の年齢を数える朝

どんな病気の原因にも
必ず挙げられる
ストレス
とは何者なのか

あなたの嘘を切り裂くために
研ぐ包丁の夜
私も無傷では
済まない覚悟

この橋を渡る時だけ眼鏡を外す

転んでは立ち上がり雪滲みる膝

二階に上がってきたけど
一体何のためだったっけ
西日射す六畳間にひとり

あたしはさぁ
表と裏の使い分け
上手なんだと言う
正直な親友

人間は
もっと自由に生きていい
抑圧の中の
幼いわたしへ

寝てるときに吸った空気で
生きてる

手を繋ぎ
黙って歩く帰り道
後ろ髪引く
月明かりの影

キライだと
思い続けた父親の
好きだった歌
口ずさむ夜

私たちに地球に必要なのは
「巻戻し」でも
「早送り」でもなく
「再生」

サンタさんはね
トナカイのひくソリで…
目を輝かせる子供の前で
胸がちくちく

缶コーヒーにくちづけた瞬間
通り過ぎる冬が産声をあげた

決意の日
水平線から
伸びる虹
強ばる頬が緩んだ夕暮れ

手洗いで皺を伸ばして陰に干し
広げてください平たいからだ

月一の
病院帰りの瓶ビール
爺ちゃんと僕の
極秘事項

なにげなく
触れたあなたの手の熱さ
発熱に気づく
幸福の時

深海で眠りにつきたい
息もできないほど、
優しさに押しつぶされて

隣人は人魚だろうか
午前二時壁の向こうで波音がする

あれは魚に似ているね
淡水でしか、きっと
生きていけはしないような　

海は灰色  
写真は色褪せていて
若くて他人のような母

茶色い衣を剥いで
色紙の極彩色を纏わせた後
あの蓑虫を
どうしたのだったろう

「ガースーです」への批判に
中高年男性たちの
心の痛みを知った気がした

この青空を
真正面から見たくて
背中に刺さる
寝転んだ河川敷の石

他人のてのひらって
熱い……
気づいた
久しぶりの感覚

闇雲に手動かしても無意味なの
知ってるけれど仕方がないんだ

さらさらと
切られ落ちてく髪の毛は
これまで旅路ともにしてきた

君おもい雨音沈む秋しぐれ

「内緒」よと
海で囁き渡された
君のくちづけは
僕に押し寄せる
眩し過ぎた波

あの日。
桜並木の下で君がくれた
春の微粒子は
僕の中の水素を
見事に破壊した

森の中の大河を遡行しないか
彼方の星の産声がする

夕日がさみしい
沈む夕日と同じ速度で
人は終わっていくから

薄氷を踏む
白豹を踏む
どっちも
とっても危ない

犬がフガ、となってから
クシャミが弾けるまでの
数秒間の陽だまり

愛犬よ
一緒に年越し
できるよね
指切りげんまん
したもんね

天へのばした手は
凍った空気にさくりと切られ
この世の温もりを探し始める

窓硝子
真冬の白い朝顔が
呼吸ごとに咲く

つまづいて
初めてわかる
痛みとか
恥ずかしさとか
思いやりとか

土鍋で飯を炊く
吹き零れる瞬間を待ち
白から透明になりゆく
米とわたし

異国語の
少しも分からぬその響き
広い世界の窓となる

「こころばかり」
添えて差し出す贈り物
悩み悩んでこころを詰めた

飛行機の
腹を見上げて
曇天を
突き抜けた先の
晴天をみる

電線に並ぶすずめの密の空

どんなに四季が巡っても
君のいる春はもう二度と来ない

少年の頃
遊び半分で遠くに投げた
蛙が見た空は
大人になった僕の
憂鬱のブルー

みすぼらしい晴天より
愚直な曇天がいい日もある

鍋囲み今日の思い出話す
家族が鍋よりこたつより
暖かい

光ったのは光年前
見えるのは今
三回願う流れ星は魔法使い

きっとまだ
あなたは気づいていないでしょう
この世とあの世の
境目に居て

またたびで
釣られじゃれてる毛玉たち
くしゃみひとつで
蜘蛛の子散らす

黒い空
流星群を待ちわびて
流れた気がする現象起きる

寒空に
凍った息を吐いて見せ
微笑えむあなた
記憶の彼方

人生の体感時間の半分が
過ぎたと嘆く
はたちの君と

肉球と小指の指切りげんまん

キャンバスを真っ黒に塗りたくる
いまはそういう気分だから

鈍感な人にだって
繊細なところはあるんだよ

弱った動物はワガママ言えない分
さらに弱っていく姿に
とても心が痛む

イヤホンを外すと
自然の音楽が鳴り響いていた

冬の図書館に集う
ひんやりとした静けさが
私の迷いを払拭していく

たんぽぽが無邪気に
摘まれるように死はきっと

すべての出会いは
紙一重から成っている

何気ない
毎日がいかに大切か
教えてくれる天災よ

世界中の音が
ゆるやかに
透けてみえる水流で
迷子の魚が透明に光る

透明な嘘が
無数の夜に刺さる
罪の意識だけが
灰色の波の中を
優雅に瞬いている

「もちろん」

君の安請け合いは
それでも私を
ひどく安心させる

もし私が
小さな貝殻に閉じ込められたら
砂浜中の貝殻を拾って
探してくれる？

道しるべはパン屑にして
いずれ小鳥が食べて
私達を
森に閉じ込めてくれるから

私の手の中で
光りかけた丸いもの
あの未完成の泥団子はもう
崩れて跡形もない

消しゴムを擦る音から苛立ちが聞
こえる

ピーマンは寂しい野菜
空っぽが詰まっている

彼氏ができたことも
旅行も秘密
やたらと「密」を気にする
ひそやかな一年

息が白いことに気付く
何度もぽわりと吐き出す
すきとおる夜だ

急がない人と思われた
焦りつつ
何をするにも遅いけど
焦ると急ぐは違うかな

ひとひらの雪として
彼の頬で解け
首筋から鎖骨へと流れて消えた
あたしの一生

教室の
古びた木製オルガンで
和音
牛とロバと山羊が一斉に鳴いた

何かの幼虫を黒い土に埋め戻す

春
身の毛もよだつ姿に
なるかもしれなくても

誰が好き？
それより誰といる時の
自分が好きか考えてみる

下校時間
割れんばかりの賑やかさ
ひとり俯く
男児が気になる

母親の姉妹喧嘩を
聞かされる
私たち姉妹と
変わらないじゃんか

転校の
前も
後にも
何故かいた
水槽に棲むウーパールーパー

ぼくもまた
冬眠準備
胃を満たす

脳みそに
ある映像を外に出す
これがわたしの世界なのだと

魔法瓶の魔法がとける時間頃
お茶しませんか 猫舌の君

合わせた掌に
祈りを込めて
息を吹く

温もりの羽で鳩が飛び立つ

死んだフリいつまで
してればいいのかな
世界の闇に薄目を開ける

口もとについた
ケチャップを
小指で拭うその仕草
君はまるで水蜜桃

赤い三角屋根のアパートに
雪が積もってる
あなたはそこに住んでいる

君に訊けなかったことを鴨に訊く

粉雪が少しだけ舞ったのは
神様が
おやつのビスケットの屑を
はらったからよ

今日のおつかい
ブランコを高く漕いで
耳元の
金属と風の音を
採取してきて

甘ったるい秘密を抱え排卵日

ぬるい通り雨
記憶をたどる
産道抜けて
母の指先待つひかり

海でなら
少し涙を流しても
大海の一滴になるから
素直に泣けるんだよ

傷だらけの私
いつかバビルサと
並んで写真を撮ってみたい

非正規の非は羽のよう
コピー機が吐き出す
書類の束が羽音で

ミルク入れ
アブラカタブラ唱えつつ
シナモンスティックひと回しする

冬薔薇 切られたあとの赤い茎

外の空気をこたつに持ち込んで
みかんからのおかえりと
靴下のただいま

卒業証書を丸めても
見えない皺が残るのは
社会で磨けという
しるし

寒いよと起きてきた子の
汁椀にひとひら柚子皮
いれてやる朝

初夏
眼に入ったレモンの飛沫が
今頃になってあたしを
にぎやかな気分にする

詩を書き続けるうちに
好みの色が変わり
詩の前にあった人生は
今や
まるで前世

星っていつも囁き合ってて意地悪

華奢なティーカップを
鷲掴み

世界もこのくらい
扱いやすかったらなあ

静かな朝
欠けた月が
私を見ている

僕の背中を見た君が
明日も笑って生きようと
そう思わせる背中でありたい

今はない
屋上にあった遊園地
今はいない
空に近いだけで
はしゃいだふたり

言葉とは空飛ぶための両翼で
響いて感じて繋がる祈り

解読できない孤独を癒すのは
いつも
どこにでもある
ありふれた風景画

十五には十五の夜が来て
四十五には四十五の朝が来る

地元では
出て行った人で
ここでは
よそから来た人のまま

存在するだけで
お金がかかるわたしたち

ほろほろと
崩れ
散らばり
溶けていく
入浴剤に命を重ね

看取るために帰省するなんて

「大丈夫だよこれくらい」
君はいつだって
誠実で正直な嘘つきだった

二十分くらいの散歩なら
付き合ってやるよ
と答えてくれた君は
もういない

髪の毛も
眉毛も睫毛も
いつもぼくと
いっしょに冒険してる

あなたからのライン
二日既読スルーして
私は透明人間になる

空と海が約束した場所に
遅れてやってきた夕暮れ
サンダルに残る砂浜の砂

不器用で悪かったわね、
そう言って
地軸は23.4°傾く

溶けたアイスの滴が
アスファルトに焼きついた
瞬く間の太陽光

今日いきなり満開になった
そんな風体な山茶花

時計をはずしたあとの手首を触る

にんげんは
翅の捥がれたてんしだから
夢裡ではいつも
空をおよいでいる

誰も私のことなど
見ていなくても
お月様が見ている

太陽に向かって走るか
山に向かって歩くか
太陽は動く　山は動かない

洗濯槽の底で百円玉を拾った
五マスすすむ

鋭利な三日月の下
別れの言葉で君は僕にとどめ刺す

上手く描けないたびに
あなたの顔が捨てられてく
くしゃくしゃにゴミ箱に

冷えた夜空
出たり隠れたりする月
にわかに明日という日を
途方もない
と思う

君とぼく
結婚指輪傷だらけ
その傷さえが
輝いている

病院で作ったナマコ色の小皿
焼き終えた竈の中に
小さな地球が生まれてた

自分の中に隠れてしまえば
鬼にも　自分自身にも
みつかることは　ない

震える手で
庭木に輪切りの蜜柑刺す

父の寝てる間に
小鳥が啄む

初恋の頬
からかいながらついて来た
北風と
銀色の満月

ポインセチアを抱えて帰る

「なにかあったら」
暮れに母からもらう真珠

初雪と鞄の妊娠検査薬

星冷える
ヴェイユが不幸語るとき

ぴえんこえて
ぱおんこえて
ファン・ペロン

そっと本を閉じると誰もいない冬

寒の雨素直な彼を許さない

林檎を投げたら太陽にぶつかった

かつては海だった人
まだ少し揺れている

沸いた鍋をみつめて
年末の余白

遠近法で小さくなる想い

公衆トイレを探すのに
四十分かかる町の冬は
毎日幸せが分母にある

ドラゴンに似てるあなたの深呼吸

東京では
この日
雪が降らない

積もりゆく自殺者の数 遠い春

急行が２番ホームを通過します
聖夜が嫌いな人は近寄らないで

私の耳に
シラップのように
秘密が流し込まれる間
従姉の鎖骨の窪みを見ていた

こちらは雪です
あなたとの距離を知る

もう一度生まれてきてよ冬銀河

先走る年末は
青白い。
見下ろします貴方を
貴方を見下ろします
早朝だとして

びしょ濡れの短歌の僕が先に行く

雪の窓キリンになって君を待つ

天高くト長調の銀杏並木

うっすら開いた犬の眼に
わたしが映り
ここにいるよ、と言うと
ふわりと閉じた

冬は夏より少しだけ我儘になる

雪に雪が降って
すべて雪と呼ばれる

隣人は人魚だろうか
午前二時壁の向こうで波音がする

結婚を友達がして
結婚を
勧められつつ食うナポリタン

ひつじ雲、ささめ雪
ビー玉
ぬのとわたの君、
みんなすき
うるさくしないから

５００円玉に会いたくて
７５０円の買い物に
１２５０円出しました

好きな絵柄の切手を買いに行く

ピーマンは寂しい野菜
空っぽが詰まっている

ステンドグラスの青だけ見てた夜

赤い三角屋根のアパートに
雪が積もってる
あなたはそこに住んでいる

星とけるホットミルクと冬銀河

君と犬だけがすべてであとは雪

ヴァン・ショーの底に
星屑みたような

冬薔薇 切られたあとの赤い茎

僕は
オギャア
と音をたてて咲く
花をみつめていた

海に溶けて世界に還り
私はわたしに戻ってゆく

久々に５Ｂの鉛筆使ったら
芯から冬の匂いがしてきた

本棚に本を並べて十二月

雪が降る
神様いるの
同じ重さで
悲しみが来る

ライオンの跳躍で
時間を計っていた世界は
枯れ葉が落ちる速さで
夢を見ていた