蝶に触れ
言葉の
　　鱗粉
　風へ

ビル街の心臓めいている桜

六月に鏡とじゃんけんして負ける

遠雷
妹が眉毛を剃りはじめる

酔った父は月まで水を買いに行く

指鉄砲撃って
わずかに
　蝶
しずむ

古書店に秋光いちまいずつめくる

ビル街というオカリナに秋の風

流れ星夜空の傷はすぐ閉じる

枯野ゆく槍持つように傘持って

どらごんの形にイヤホン絡まって
取り返しのつかない事をしてきた

電車で本を広げるとぴぴぴって
差しこむひかり　戦争をしらない

急停車しますって
ふいにアナウンス
みんなはだまって鱗をおとした

にせんにじゅういちねんを水飛沫
あげて渡ってくももいろのくじら

赤色のこんぺいとうがひとつ
減る気がした兄の結婚報告

改札を出たらひらたい海ひとつ
抱き寄せるから死んでいいから

長生きは望まないからタンポポの
綿毛みたいな性器ください

気に入った文字と
ひとつになれたらな
仰向けで上目遣いで　弓

本屋さんみんな毛糸のゆびさきで
頁をめくり文字をまもった

こもれびの影が
ゆらめくこの部屋に
ずうっと海があったんだよね。

坂
降りる

へつらうこともない春は

囀りのいつかは夜が見えないよ

鳥曇り
閉じ込めてくれそうに本

朝日やわらかエスカレーターも夏

水を
そそぐ。
飛び跳ねているのが、
僕。

差出人空欄白樺の樹液

金魚よろめく
大学教授の
脱走

月彦全句集を抱き汗の腋

生きるとか死ぬとか氷店に旗とか

自意識の穴から噴き出してくる海

半透明なものはみな宝石だと
いう 
　　君の 
のむ 
　　麦茶 

目の前のくつしたを雲が
超えるまで
肉体をキャンセルしていたい

僕は　
　殴る
啄木は　
　改行する

落ちる月が
エンターキーを
押していく

雪起し遠く深夜の長電話

椿　落ちる
椿があったところ
　の
空気

百千鳥えんぴつの落ちる音になる

銀河が広くて
スーツケースをしまわない

夜、洗濯機が
新しい海に
　なろうとして
音を立てる

全色の色鉛筆を三月に

海賊の夢を見ました。
一本の
巨大な桜が島だったんです

ケトルには
しずかなお湯が沈んでる
あの世の朝を汲んだみたいに

吸い殻のように眠っている君の
ずれおちてゆく毛布と心

コーヒーの
ぬるさ感じるてのひらに
思い出す昼の
深海のねむさ

観覧車から街を眺める心地する
姉のつむじをひさびさにみて

父親が
高野豆腐を
日没のように食べてて
雨に似る箸

錆びている傘で相合い傘なんて、
虹に一回喰われてこいよ

サーカスのテントを出れば
象の目のような宇宙に
見られてたんだ

君がふと窓をひらいて
手をのばしたくなる雨の
予感になりたい

どんぐりを踏んでしまった
いきおいで
そのまま星も踏んでしまった

青空の罫線として電線を、
僕らが利き手で掴む焦燥

セブンティーンアイスの
グレープシャーベット
自死からいちばん遠いところに

いくつかの花束で知る人の死と
河川の花が穏やかなこと

ランドセル背負って少女は階段を
液体みたいにくだっていった

じいちゃんが火葬されてる建物の
二階で従兄弟と寿司ばかり食う

終電のあとの線路を剥ぎ取って
大縄跳びをしたい、ひとりで

気怠げに冬のホームで整理する
鞄に散らばる色鉛筆を

空爆の爆発音を聞くだれも入って
こない自分の部屋で

ファスナーを最大限に引きあげて
なにもできないんだぼくたちは

将来のことは将来決めるので
黙ってシャケを食べてください

紫陽花をいっしょに見れば中学の
校歌みたいに透き通る恋

肺呼吸だからいけないのか
きみは水族館でわたしを見ない

シャンプーのゆびさき　星の
まんなかでひかりになっている
さがしてよ

全員が何かの予備軍であること
袋麺のふくろを破く

感情のうつわにそっと水を張る
何かが飛んでくれば沈める

きみはいつ初潮を迎えたんだろう
スローモーションの花火をみる

潮風にかこまれながら夜はただ
ひかりの無さ　あなたはあなた

不織布をまっかな口紅でぬらして
話しつづけた星のこと　夜明け

逆光のかみのけゆれる　たましい
は星になるときいちばんほんとう

僕を知らないまま僕でいたかった
逆光の樹を切る夢をみた

ピーナッツバター馬鹿ばっか

ヒヤシンスに鬱と名付けて
長く咲かす

玄関の芳名帳と白日傘

夕焼けてお墓に備えあるお酒

死を選ぶにはみっちりの冷蔵庫

虫の闇ギターの内に木の素肌

合鍵を指先に押し当てている

ビー玉を口にころがす時雨かな

凍滝や犬ふがふがと臭い息

冬すみれ惨めに生きて詩が元気

梅雨冷の
ずずずずずずとクレラップ

墓石に映る目ん玉寒茜

缶詰めの肉寄っている雪催い

傘巻けば少し膨らむ冬野

塩鮭が瞼のように置かれてる

雪と水水と雪水入れかわる

鈴の中に一本の糸寒桜

寒鴉ふさふさなりの歩き方

カイロ振る音のしてくる電話

風花に舌打ちを許されている

人の居ぬ地に風食みの糸芒

金琵琶を煩く感ずる日があって

実椿の硬さ遺髪の柔らかさ

裂くような子の笑声に秋気濃く

鼻痛むほど澄めば末枯の原

秋旻に紅引くような星滑る

漂泊のモナドにしんと雪雑り

小石蹴る音にまたたく冬銀河

涸れ川を歩く心地でものを言う

敲き土掃けば幸徳秋水忌

私たち存在ごっこ
前髪で目を隠したりして

世界から
水平線を引き抜けば
スコールみたいに落下する空

真夜中はステージ４の僕たちに
唯一残った延命装置

かなしみとは
翼を失くしたことではなく
それを忘れて空を見ること

誤差なんだ青い瞳に生まれずに
夏を黙って生きてることも

会話のない深夜高速午前２時
多分僕らはここで生まれた

車窓には都会の明かりの朧げな
光に今にも消えそうな僕

誰からも愛されなかった日曜日

見上げれば
誰が降らせる訳でもなく
誰かのために降るような雪

春雨が世界を叩く
君だけが私に傷を残してくれた

後輩に適当言っているときの
あたしの目が生きていてごめんね

天井に嵌められている蛍光灯の
落下を思う授業の合間

廃校となってそれから誰よりも
繊細な紅葉を見ている

予備校の寮へと宛てた林檎酢の
暗きに思う教室がある

数学がわからないから降りる駅
降りて歩けばきれいな夕日

卒業とともに校舎は閉ざされて
それでも光る廊下があった

好きなように飛び交う蜂を
避けながら
自転車で漕ぐ町のまぶしさ

床置きのゴミ袋が傾いてきて
こっち見る見る
見ないでほしい

恋っぽい気持ちがひかなくて
眠れない夜に瞬くヘリコプター

もう帰るしかない時間の歩き方
昼に見たアゲハ蝶はよかった

２番出口の階段を上る間の感情
だけ連ねた日記

私しかいない車両に傘二本

下ろし立ての服
ほつれた肌着
バランスをとって、
今日も私は私

自衛のために消えていく執着
【大人】は薄っぺらくて強い

生きる。

貴方が通り雨を凌いだ傘
翌日には捨てたその傘
雪に嵐に
私と共に濡れたんです

あなたを試すための余白

君の睫毛に腰掛けて
牡丹の崩れるのを
見ていた
見ていた

抹茶の甘さを知った日に
すとんと理解した
母もいつか居なくなること

熱を出した私の
前髪を分けたのか
額を撫でたのか
わからない手つきは「母」

日焼け止めは母の匂い

睡魔を罠にかけて眠る

夢の中に出てくる人は
みんな私のことが好き

パンタグラフに引っかかる空

雲は水蒸気だから寝転べないよ
と言うだけの簡単なお仕事です

くるぶしと鎖骨を軽視した十代

真っ青な顔で飛び込んできて
間違えましたと出て行く青春

錠剤の苦味を感じるまでの雨

抱きしめられて
自分の幅を知る

椿としてのガーナミルクチョコ

おいしいね
食べてごらん、寂しいから

民族は
デザインだ

花びらが
気になる「まて」の
子犬たち

先生の手をぎゅっ
小さな足で進む

すぐそこまでの
大冒険

震災の時に出来た
まだ直らない亀裂
奥底から緑たちが
命を輝かせている

家族分の未来が
はりめぐらされた
冷蔵庫

りんごがすきか
みかんがすきか
そうきかれたら
ばなながすきと
こたえたくなる

大きなバケツを
持ってきました
落ちた気持ちを
拾おうと思って

急降下の夢を見て
口から出た心臓を
戻すのに
手間取り
遅刻しました

保育士の姉は
その言霊はよかったかな？
と叱っている

梅かおる
孫の手
あの時の位置で

定型に囚われながら
定型に囚われられない
心を描く

「活動家」僕らの声を悪めかし
動きを縛る「一般市民」

箱庭に口と耳だけ持ってきて
言葉をつくる言葉もあそぶ

街灯の燈火がやけに揺れ流れ
灯篭のよう
八月が来る

夕焼けを固めただけの飴玉が
いやに光って僕には眩しい

読めない字をただ
愛してたあの頃と
読める字だけに
閉じこもる今

ひとはみな
なんて今では言えないね
逢坂の関も壊されちゃったし

ふと冷えた窓辺が青く燃えていた
ピカソが描いたあの錆びた青

幸せに暮らすことしか許されない
ジジババさまの不幸な生活

人間は呼吸をしたら死にます
そのうちいつか