五月雨が僕にだけ降る不登校

寂しさが目配せしてくる教室で
便覧ばかり読んで過ごした

内定は花野にあるって聞きました

目減りする心を天使の分け前と
思うことにして面接に行く

さくらんぼ　私が兄の世界線

母が母にならない道もあったのだ
母になる前の母には会えない

廃番のチークみたいな秋夕焼

放たれる風を言葉にするために
鼓膜をぴんと張りなおす冬

キャラクター葬という名の卒業式

困ったらアを選ぶような僕だから
赤点だったし、さよならだったし

月光
ダンサーの
しなりの
無音

老星赤く
暗い冷蔵庫に
卵

指先に
部品の金属臭

遠雷

春の雪
黒板に文字のかけら

焼釜にナン貼りつける開戦日

砂かつて
風の
文字なり
砂時計

バファリンの表にＢが彫られ冬

海に来て秋思の君がうんと言う

初空をつかもうとする肩車

仲直りせず初雪を赤い靴

深刻になればなるほど学校は
指紋ばかりの雨の日だった

こめかみが寒い
どんな物語を聴いても
眠れない体育館

くりかえす青葉の
くりかえさない涼しさに
きっと　なんど
まばたきしたら

向かいあう遠景を
だっこひもに頼って
くすんでいく
鳥の声がきこえた

手を浸して
あたたかいプール

金木犀のいま降るところ

私は布団を売るために生まれ
実際たくさんの野菜を売り
よく壁をながめていた

ガチャのカプセルには
母の模型が入っていて
午後から雨だと教えてくれる

化粧水の第一印象は
あらそういぬを
雪に規範づけるか次第
だとして

ドラッグストアのゆうれいが
ばかにひらけた氷上で
踊っていたら籤引きになる

うさぎでできた霙に
傘を打たれて
懐かしい袖口があったこと

脊椎の窪みの鋭さをなぞる
きみは死んだら良い薔薇になる

雀荘は海へと還る
あのひとが
骨張った手で洗牌すれば

春の夜の前置修飾ふくらんで
ただ好きだって言えばよかった

別撮りの卒業写真の背景に
爆弾みたく落とす青空

無精卵みたいな言葉を吐きながら
カウンセラーは窓ばかり見た

あの子まだ十六だった
斎場の鮪は冗談みたいに赤い

半熟のすももを撫でる
親指の腹で円周率がはじけた

話したいことたくさんあるの
かっこいい名前の骨を
折ったこととか

初恋は淡水に棲む


かにぱんをゆっくり
解体していく夜更け

生ハムをふわりと巻いて
本当は花だけ産みたかった、
と姉は

花杏寮退く君とグータッチ

ミサイルの形のピアス薄氷

珈琲はうたたねの味春炬燵

恐竜の化石見上げる旅始

座布団の角の艶めく初稽古

歩き疲れて
真夜中のクリスマスチキン

霜の朝ふうわりと飯炊き上がる

活火山背に撮るスキー板掲げ

空へ差し出す
　裸木の枝（え）のぬくみ

ぽたあじゅのたぷんと香る冬初め

夜明けには天皇陛下になる君を
呼び捨てにした最後のハイウェイ

結局は誰かが不幸でない限り
光の強さを誇示できない街

窓ガラスのうつろな瞳の僕たちを
都市の夜景が希釈する、零時

水滴を全うできないはずなんだ
涙も雨も朝露さえも

窓枠に世界を収める作業から
解放されない、ほらまた陽光

花弁が名前をもらえず散るように
戦地に誰のか分からない骨

誰しもが街の一部でありながら
誰を欠いても成立する街

幾千の雨が不時着するように
不意に街へと降り立つ僕らは

１００年後も
君の伝記の片隅で
蛍光ペンを引かれていたい

明日から涙に税を課すけれど
誰も泣き止まないような国

博物館で三ツ矢サイダーを
飲んだ後とても未完成な息をはく

水浸しのシャツを海とまちがえて
抱きしめた日の風がふいてる

打ち寄せるって波にしか使わない
けど君の身体が打ち寄せてくる

たりない、と花弁みたいに笑う
君がふっとくずした体育座り

水泳の授業のあとの国語では
クラスのひとが少しあたらしい

雨っすね　雨くらい降る星にいて
あなたは雨をじっと見ている

影に降る花を踏んだら影踏みが
はじまって泡立つ夏の声

もう何も言うことなくて海のほう
ばかり見ていた　海ではなく

ねえ先輩若気の至りやりましょう
そんなんだから嫌われるんだよ

童心と言ってしまえばそれまでの
おれらを乗せてあの燈台へ

１６９センチ６２キログラム
実物大の孤独

祖母の名は陽子といった
僕もまた
きっと誰かの素粒子である

自由には二種類あって
ゼリーみたいのと
どんぐりみたいの

濡れたアスファルトに
朝陽は散らばって
魔法瓶の底にいるようだ

僕の名を
テプラも覚え始めてて
春は眩しい密室である

(バカマヌケ)
手話の喧嘩で
(アホノロマ)
忍法をかけ合う河川敷

いわし雲の等間隔を埋めよ
男子生徒のバリトンサックス

ローマまで歩きたいなら
１０６日かかる
グーグルマップによると

僕は人より小舟寄りな気がしてて
帆を揚げるようセーターを干す

ジェットコースター点検階段の
最上段で
天使が泣いた

「うそつき」の
　「そつき」　の部分だけ響く

南館の
便器のレバーは
冷たくて
ぐおんぐおんと宇宙は広い

ビーカーに沈みゆくふたり
極性を持たない愛は水に難溶

はんぺんを
さくっと分かつ
或いはモーセ

電流が
君と、
手渡すプリントをつたって
私は、
回路になった

銃撃戦が繰り広げられ
味噌汁があったまる

カフェオレを
取って生まれ
た空間に
アルバイトの手で
並べられる僕

枝豆の
匂いがして、
畦道に
仄赤く灯る
魂売り場

下じきの
ない生活は
筆圧で
世界が凹んで
歩きづらくて

僕の字が
君のはらから
声帯を
伝って、ぱっ。
くちびる踊る

青空やアブラカダブラ
タブラ・ラサ

てふてふに乳房与えて姉妹

歩き電話
道の桜を目で流す

初夏や手乗りのアンモナイト飼う

かき氷徒歩圏内がぜんぶ晴れ

走ったから泡立つ麦茶だったんだ

鰯雲ここも誰かの歌枕

木犀や鏡濡らしてから拭う

ここあ練るつむじの向きを考える

短詩縦書き重力をいかんなく

水にさえ致死量があり枯れ野原

監視所にストーブ一つあり独り

天井の高い図書館の、
あの席に孤独があるよ、

やさしさを
アイデンティティにするからよ、
こんな肉塊になって、
こんなに、

包丁をはじめて人に向けて夏

風光る 孵化しなかった方が僕

抽象画にされてメロンソーダに陽

手の甲にテスターの跡 秋夕焼け

バス停の「松本さん家前」小春

春祈るように子犬を買いました

夜はいい
ふるい平屋の軒先の
鉢植えのパンジーが鋭利で

間違えているのが僕でユーカリを
たべて寝ているのがコアラです

プレス機に
焼かれるタコの音のよう
僕を名付けたひとの寝息は

カミソリに輪郭を確かめられる
真昼の月のような床屋で

期限切れの本を返しに行こうかと
思ったが雨、重力だらけ

平日にひとり泳いでいて
区営プールのぬるい水を誤飲する

菓子パンは
いただきますを言わなくて
いいからすこし気が楽だった

寓話はおしまいに向けて菜の花を
過剰に描写する
しかたなく

ファミレスの
バックヤードに感情が
あけたと分かる穴ひとつある

警官はたんぽぽに職質をしない
すごく危険な思想家なのに

浜辺には異国の煙草が落ちていて
少年少女が捨てる故郷

あの人が幸せだったと言っていた
それが嘘でもいい
恐山

つま先が削れた靴で駆けていた
明日熱出すなんて知らずに

あこがれの回転木馬が止まる先
夢の中でも塾が建ってる

白蠟のような手首が夕焼けに
焦がされ熱くなるよ晩秋

観音の
口にいちごを捻り込み
如来になりゆく嫗の両眼

仄暗い駅舎に宿るるるるの気

難しい方の「お」です、
そう「を」です。
しゃがんで蟻を見てるみたいな

母さんに託されている銀行の

暗証番号出生体重

金色の仏壇一つ粗大ゴミ
白い道路に置かれたまんまで

わたぼうし
追って
日なたへ駆けてゆく
おとうとの背に立ち上がる虹

歩道橋から
親友へ手を振れば
世界にふたりだけのゆうぐれ

好きだとは言えない
距離に落ち着いて
手持ち花火を見つめるばかり

きみのその、
浜辺みたいなそばかすが
くしゃっとゆがむ
青空
　だった

引き止めることば
を
むりに飲み込んで
つつじが胸にざらついている

海につづく坂
を
駆け下り　夏を抱く
すべての樹々が眼に痛かった

かわきながら
強く
ふるえるたましいが
たてがみのような葉陰にふれる

ぽにーてーる
に
風は結われて　かっとばん
剥がし切ったらきみと別れる

おるがんを
ひとさしゆびで鳴らしつつ
かみさまになれそうな　月夜だ

高架橋　ぬけて
あなたがいた日々に
いつもれんげが咲いていたこと