一年に一度あなたに会いに行く カサブランカの花束を持って
飲めもしない 無糖の缶コーヒーを買う 春の墓地から帰る途中で
夜露に濡れた すみれの砂糖漬け一つ 浮かべた紅茶を飲まずに捨てる
祖母と母、それから私 ひし形の爪の遺伝は ここで途切れる
頬張った柘榴をぶちぶち噛み砕く 命もこんな感じだろうか
色の無い絵の具を画面いっぱいに 塗りつつ舐るチャイナマーブル
用水路を流れる落ち葉早く行け 溝の掃除が始まる前に
猛スピードで流されていく 雲を見るために 立ち止まる
いちじくの『じく』は いつでも濡れている
アクリルの毛糸の硬いやわらかさ 君が初めて編んだマフラー
人間が微笑む時と泣く時の 位置については同じ構えだ
ひび割れて塗装の禿げた ベランダで煙草を吸って 灯台になる
こんなにも雄弁な手を持っている あなたを人は無口だと言う
もう顔も名前も忘れた人に つけられたあだ名は まだ触れられる
木漏れ日を指で掬って舐めてみる
私たち愚痴を書く時ひらがなの とめ はね はらい が 活発になる
天気予報曰く午後から雨らしい 少し濃いめに入れるコーヒー
雨の後あちこちに落ちている空を レインブーツのつま先で踏む
植え込みの影に 落ちてたアゲハチョウ 来世はツツジの花におなりよ
抜け落ちたインコの羽を手の甲に 挿してみたけど空は飛べない
雨傘は右に大きく傾いて 君の隣はいつも寂しい
お姉さん、犬好きですか? 僕、人が大好きなんです 撫でてもいいよ
すれ違う人々と目を合わせずに 横断歩道の黒だけを踏む
気がつけば更地になっていた ここに建っていたのは 何だったっけ
出来立ての畳には まだ草だった頃の記憶が ちょっとだけある
「父はここで死んだのですね」 はたはたと涙は 画面の向こうに落ちて
読みかけの本を窓からやって来た 風が勝手に読んで出ていく
何もかも分かったような ふりをしてニットに 毛玉取り器をかける
そのままにしても すぐには困らない タオルのほつれ程度の違和感
当たり前みたいな顔で内腿に 這いつくばっている蕁麻疹
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