座礁するルンバを抱いて 新品のパズルのような床へと放つ
花ひらくつま先で喉なぞりあげ ゆっくり走る静電気たち
よれよれのパジャマを吊るす 天秤は光の中で傾いている
つめたくてくらい場所へと 帰るとき横断歩道は魚の形
サプライズの予兆のような踏切の 音がゆたかにわたしをつつむ
オレンジの光のなかで立ち尽くす あどけないまま燃えてゆく人
耳たぶを縁取る朝に揺れながら 七つの海を越えようとした
老いていくままに見つめる 夕焼けを鋭く齧る連なった山
街角で馬車を見つめる人の頬 優しく裂いた風の国籍
さえざえと鼻の奥へと流れ込む 冬の匂いに傷つけられる
ブラジャーのホックを雑に 留めるときあなたの息の ひそやかなゆれ
白色に整えられた構内で 出口とガムの汚れを探す
やり方を調べないまま縫いつけた ジーンズの裾のような星空
改札に背中を向けて立つ人に いきなりの雨のように触れる
青々と光る廊下を踏みしめる たびにつま先からする脱皮
琥珀へと 閉じこもりたい日もあって 淡く発光している子宮
喉仏やわいナイフで切り落とし 国旗がきれいにはためいている
はめ殺しの窓から落ちる陽に猫の 毛並みは海のようにざわめく
乾杯にありとあらゆる声が揺れ メメントモリの響きを溶かす
ぱちぱちと薪は夜どおし軋みつつ ささくれ痕を浮かび上がらす
ランドセルの内に溢れた海のこと 思い出すたび胸のひらける
何人も犯すことないから夜に 念入りに折り紙を尖らす
種のある果物は好きになれない 人の頬にもひかりのぬるさ
テーブルを透かして光る紫の ゼリー泣かずにティッシュで包む
目の奥に月をこっそり潜ませて 催眠術を教えてあげる
上履きのかかと潰してしんとした だまし絵みたいな廊下をすすむ
朽ちていくだけの廃墟を抱く蔦の ノンレム睡眠のような緑
シャッターのなかの私は息を止め 風を知らないアネモネだった
太もものあざの色したアケビ蹴る 鞄に詰めた秋の鳴き声
潰されて細かくされて ペットボトルの魂は透明だった
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