もう目には見えないけれど 窓際の日向に犬が寝転んでいる
落ちていく夕日が一重瞼へと
右腕を明日に放り込んで寝る
秒針の三歩後ろを歩く春
誰のものであっても葦のような影
きっと誤字脱字で 溢れているだろう 僕の今までが本になったら
あてもなく油粘土を捏ねている
寿司ネタをひょっとめくると私を 山葵が不思議そうに見ていた
満月のように光っていた君の白眼 明かりを落とした部屋で
笑いながら君が叩いた 手のひらの音 翌朝にはなくなっている
約束をしましょう大丈夫 きっと夜が明けたら忘れているわ
畳の目のように並んで 私たち集合写真に収まっている
まっぷたつにした春キャベツの 真ん中で明日の朝日と 待ち合わせする
いつの間に 季節は塗り替えられただろう 昼間よりずっと賑やかな夜
流れ星ひとつ滑って 天の川で誰かが 跳ね石遊びしている
夏色の舌を見せつけ笑う子の 唇の端に練乳光る
金髪の根元に黒が増えてきて 生きているらしい今日も私は
『またいつか会おうね』なんて 玉止めの失敗作のような約束
君の影がノートの上を 滑るのを見ていた サイダーの泡を舐めつつ
僕がまだ言えないでいる事を 右手の水風船が ぽちゃぽちゃ告げる
今朝までは住人がいた金魚鉢
手のひらのように開いた教科書の 隅っこに描くパラパラ漫画
脱衣所の鏡に写る 脱皮したばかりの人の 身の柔らかさ
言葉になり損ねた涙を 夜が明ける前に こっそり海へと捨てる
ポケットにいつも忍ばせてある 祈りひとつぶ 蛍の光みたいな
傷つけることと傷つけられること どちらもこなして生きてゆくこと
魂を二つ並べて眠る夜 つま先同士でおやすみを言う
水道の水、昨日よりやさしくて 春がそろそろ起き出してくる
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