秋の澄む人の貌みな横向いて
秋の雲ここより先はどれも帰路
俯いて消ゴム見上げれば秋の雲
ロシナンテ少し休もう秋の雲
ランドルト環が下欠けばかり 秋彼岸
寅丑の鬼門を避けよフロイト忌
秋暁のひかりの素足に履く木靴
秋日向大工のゴーシュは鋸を挽く
トランクのなかから蜻蛉賢治の忌 *宮澤賢治忌=9月21日
赤とんぼ埋められた児に水運ぶ
来た空を 肢(あし)でなぞって去るやんま
墓濯ぐ水の昏さに鬼やんま
野分立つ熟成を待つジビエ肉
雨温(ぬる)く 蟋蟀の蹴る闇の皮膜(かわ)
昼こおろぎゆっくり回る観覧車
蟋蟀(ちちろ)鳴く 危ない8ミリ鑑賞会
弟の虫の形の声を聴く
素足に履く木靴の湿り秋桜
コスモスが 墓碑銘(エピタフ)匿す祖父の墓
コスモスに影だけ映す 迦陵頻伽(カラヴィンカ)
踊娘の昂ぶるほどに掌の冷えて
足下の闇を踏み抜き踊る盆
オーボエのリード削れば野分晴
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