みぞおちという水際に揺れながら 言葉はすべて濡れていること
レントゲンうすく曇って 家族だと思えなかった人の隣で
完熟をすぎた果実のくるしさの かつてひとつの花だったこと
忘れたくない事ばかりふくらんで 月は欠けているほうが眩しい
傷つけることばかりした 守るため囲った有刺鉄線だった
透きとおる雨は まばらに降りながら ふたりの道を少し汚した
笑っちゃうほど青い海だったこと 溺れていたからわからなかった
眼裏のずっと消えない絵にふれて プルシャンブルーの海、真冬の
うつくしく花鋏をもつ人だから 薔薇はまた咲いてしまうだろう
円卓の真ん中自転している酢 冬の速度でまわしてあげる
この胸に棲まうかなしい獣を あなたは夜の向こうから撃つ
半分にオレオをひらく この雪はたぶんこっちの 何もないほう
折り線の通りに傘を閉じていく 理性を愛と言う人の手は
どれほどの冷たさだろう 人肌をおぼえたあとの 冬のブランコ
折り紙を二枚一緒に折る舟の どこからずれていたんだろうか
指でする約束は透明なリボン 君の蝶々結びはきれい
空気って音がないから心臓を 祈るみたいにふたつ重ねた
シャンプーを こぼさず詰め替えるように 言葉を選んでも殴られる
あなたには 平気なふりをしてしまう 歯医者ではすぐ手をあげるのに
黒板に大きく書かれたぼくの名を 見ている同じ服の人たち
鉛筆と留守番した日 絵の中の 母には靴を履かせなかった
やわらかな指を持つ人 スカートの砂を集めて 星だと言った
右耳を背中につける しん しん と 降って重なる粉雪の音
落ちてゆく日が照らすのは通り雨 世界は数多の光に満ちて
すぐ溶けてゆく夏だった 鴨川で 小さな口に運んだスプーン
「平和行き 列車の座面と背もたれは 人間の皮で作られました」
雨に濡れないよう肩をくっつけて 正しく傘をたためなかった
ちりちりと寒い身体はくるまれて つま先に住むシロクマは死ぬ
僕に足りないものは たぶんあれです 皿の余白に散らばる粉糖
詩
俳句
川柳
短歌
アフォリズム
全種類