過去の作品検索

その香りが
私を曲がりきる前に
空が切り替わっても
まだ、叶いますか

あぶなくて削られた角
待ち合わせ場所をなくして
すれちがう私たち

三角巾に染み込んだ、
檸檬のにおい
私の密やかな縫い目

てのひらに
鱗のような寝跡がついて
熱を帯びるまぶた
まだ、きのうが分厚い

スクロールする指先に
追いつかず
笑ったままになる

わたしの前で
わたしが知らない曲を
口ずさむ人の、
咳ばらいがまぶしい

指先のふくらみに、
産声を感じて

鍵盤と向き合う

錆びた手すりに頬をのせると
空から
絆創膏のにおいがする

ラッキーアイテムは
白のスカート
雨の日に、
自転車を跨いで

ちょっとだけ、生まれ変わって
私の背にふれてみたい

私はリバーシブルだと
言い聞かせて
寝返りを打つ

私を眠る私の
　　　　　瞳の奥で
ガラスケースを磨く私

口紅を塗らなかった日に
使わずに済んだひらがなが
灯る

履歴を残さない仕様なのに
いつもここで、
名前を呼ばれる気がする

体温がある気がした
玄関のほう向く
ぬいぐるみの頬

わるぐちがはじまって
飲みかけた水を戻す
点線の位置に

くるぶしに宿る
いくつかの木漏れ日が
私を淡く呼びとめる

過ぎてきた日々に
マーカーを引く
さりげなく、こわれないつよさで

美しい人の
美しい言い訳にうなずいて
私のなくしたものたちが鳴く

伸びた爪を切り落として
あの日見上げなかった月を思う

空が私に
私の形を教えにきたみたいに
風を贈る

切手、ふれただけで湿って
私を急かす

うつむくと、
とがる心が
むずかしい

記号として生まれてきた
わたしたちの、
色彩と涙。

濾過しましたか
あなたに
成分がわかるのですか、

いまは
読み飛ばされてしまう
こころでいいよ

手をつなぐと
この世には存在しない
みどりいろで溢れる

保冷剤、頬にあてて
わたしに至る前の
ゆきやなぎ

答案用紙
はなびらのように
湿って

あくびすると
ほのかに

たましいの境目