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竜胆の色を忘れたら
見るべきは秋、宵の口

小雨が摘んだ
金木犀摘んだ
今日の日暮れは
黄色に甘い

花の矜持は濁りに浮かび
花は謙遜と淀みに消える

三千年前の草を忘れ、
ヤギュウの骨は喰う、人影を。

今日も私は蘇る、
掛け布団という盛り土から。

窓に恋して落ちていく、
あれが最後のマダラチョウ。

通り過ぎます彼岸花、
ここ曲がります馬櫪さん。

命は紙、記憶は墨
写され編され棚に納まる

朝焼け色の赤蜻蛉
夕べにゃ蟻が暖を取る

枯蓮の花に蝶ひとつ、
翅を揃えてさようなら。

ばらばら花は枯れる
さめざめ虫も鳴く
秋の風景を認めて
まだまだ汗は垂れる

生ける世に
いくつの好きを
遺せるだろう
いくつの悔いを
抱えるだろう

とっておきだった
色つきの原稿用紙
手元に残ったのは
トーキーみたいな複写

童謡は遺言だ。
童話は遺書だ。
歌おう、書こう、
大人になりきる前に。

泣きやめ泣きやめ、
狐の子。
お嫁の足元、
雲がたつ。

わきめもふらず　夜の海、
紺の淵、
かえりたくても　かえれない、
まだ早い。

号べない夜、涼風に、
まつむし、すずむし、ないている

蝉が短く叫ぶ夜、
腐るマンダリン、ぬるい風。

今夜の蜘蛛を生かしても
明日やその後に糸は無い

黒く酸っぱい安堵の実
腹が満ちても　あとひとつ

夜を知らずに花は咲く、
花を忘れて舟は征く。

蛙は雨の為に鳴き
雨は田畑の為に降る
人は泣く泣く傘を差し
夕餉の米を考える