月光に透ける芒は泣きながら 頬を張られた夜の残像
夕暮れに垂れ下がる老犬の尾は 古びた柱時計の振り子
入れ替えた助詞が眩しい 食パンの耳を剥がして 蜂蜜を塗る
才能のある人の血は致死量の 葡萄の味と信じて眠れ
夕焼けの匂いは遠い 行き詰まるとこまで行って トマトを潰す
夜の目を盗んで逃げたぜつぼうが 次々毟るニワトリの羽根
てのひらに金平糖を出し過ぎて 昼の銀河に出合う弟
夕立ちで 抜け落ちそうなひらがなを 餃子の皮に包んで守る
海からの借り物として 球体のように私を 撫でる母さん
草原の包帯を解く明るさで 夏のあなたが回す地球儀
卵黄を夜空に吸われ洋皿に 死体の真似のような卵白
草原の背を撫で諭す 駆除される順は 子から親と決まってる
大袈裟な比喩に疲れて テディベアと 外野席から眺めた桜
真夜中を貫く銀の月光は 祖母の腰から抜け落ちた釘
海の匂いのスリッパの持ち主の 誰も知らない過去の筆名
銀色を溶かすはんだごての煙 夏の間は蝉がよく死ぬ
子ウサギの役が抜け切れない夜の 一オクターブ高い「おやすみ」
一兎、二兎って指を折る まばたきのたびに 一瞬の夜が跳ねる
図書館は シロナガスクジラのお腹 僕を夏から上手く匿う
夢に棲む龍の鱗は てのひらと同じ大きさ 今日も大雨
土砂降りの信号待ちの傘の中 ぼくは世界に取り囲まれる
青空へ 落下してゆくシャンデリア 掻きむしるほど言葉は遠い
一輪でサーカス小屋を震わせた 「パパ、獰猛な薔薇を飼いたい」
讃美歌を歌い終わった風波に 覆い被さる月の引力
ベランダで母が煙草をもみ消して 蛍の焼ける音が聴こえた
青白く眠る珊瑚を抱き寄せる 保健室のシーツの波間で
蠍座に雨が降ったら 灯台が蝋燭代わり ね、カムパネルラ
永遠の蕾のままで空をゆく 気球は燃える花芯を包む
筆圧は花びらの跡 会えたね、と 風を言祝ぐ銀のハモニカ
風の寝姿が砂丘と知った日の 六時間目の鉄琴の音
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