失明を宣告された写真家が 風を最後の被写体にする
加速する、予祝のように。 前かごに溜めた枯れ葉を 舞い上げながら
錆びるほど やさしくなるカウベルの余韻 三月、あなたに教わった語尾
春生まれ、その両手から注がれて 製氷皿はうすく色づく
灯台を楓のように駈け降りる 螺旋の方程式の日の入り
読みさしの画集に乗せた 陽だまりに紅茶を乗せて運ぶ ゆっくり
天秤を傾けた蝶 その皿へ広がる花野 さらに傾く
匿名の波 それぞれ浅瀬を歩む 影法師の領土を守りつつ
鍵盤の蓋を閉じかけてはひらく ようにまどろむ睡蓮の人
海へゆくメロディーロードの 緩やかなカーブへ トロンボーンの夕陽
聞き分けの悪いそよ風 風見鶏、 いつまでそうしているつもりだよ
窓側でありふれた会話に揺られ 苗木園へといま差しかかる
投げ縄のようにあなたの海馬へと 風景画家はその手を放つ
陸橋に陸橋の影 重心は 重なって移ろって二人乗り
夕暮れに 四季のすべてを乗り過ごし 海へと垂れる赤栞紐
ひかりから逃れるように泳がせた 視線が蝶の軌跡を残す
ぎっしりと渚をつめて靴を置く それから私は日溜まりだった
言いかけた言葉の行方 はなびらの落ちる様子に まつわる記憶
春風はあなたに貸され、返された そういうサドルの高さを漕いで
懐かしい人の名前を綴り終え 機能をしなくなったA4
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