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何も言わずに春雨を
眺め何も言わずに立ち去る

狼狽えてなぞる手の傷春の雨

外側を愛でる通信山眠る

一番にはなれない自分を
時雨の中で
奪われていく体温と思う

筆を握る苦痛に気づき春の雨

0と1の塊から生じる不思議雨霰

梅の花膨らむように
其処彼処にある悩み

死んだ母の誕生日だったなあと
ふと思い出す
冬の洗濯物の冷たさ

冷水の中で水切りする花の
生かされていることの常態

水晶のように固まるプライドを
胸のしこりとして生きる違和感

うまく生きてるねと
composition
あんぽんたんな雪ダルマ

簡単に言えたらそうしてる
鑿を打つ金槌の音だけ響く
アトリエに満ちる光束

陰影のメソッド
侍という薔薇飾る正月

街中に星が溢れる
クリスマスイヴに
透明になってゆく身体

空咳で肋骨折れて
旅をする夢を見る
痛覚は空を忘れない

雪が降る
人の形をしているだけの
寒さが輪郭をとらえる

松の防風林つめたく
街から隔離されたような
私の仕事を父は知らない

野茨の紅いてんてん身に染みて
痛みばかりの人混みのなか

土星蝕　隙間だらけの人の骨

累計の中の数字として消える
死者数の分の好きだった花

風習とは無垢な祈り
ゆらされてゆらされて
海になるゆりかご

枯葉を穿つ雨音の
詩のようでわたしいつも寂しい

優しい世界になれば良いね
外側から他人事のような
フラワーシャワー

墨を磨る　死の香りして冬霞

六等星　落ちて静かな湖畔の縁

林檎齧る月の満ち欠けのように鬱

白鳥座が見えなくなると
白鳥はやってくる
言い訳をいつも考えている

死の匂い引き連れ秋の土星の環

島へ行く船の人達おしなべて
港へ手を振るひかる灯台

巻き上げられた落ち葉が
風を五線譜に帰る夕暮れ