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蚕蛾がなくした口のその分を
震えるためのちいさな翅

右胸に並ぶボタンの眩しさに
気づいたあとは遠いふたご座

石鹸をしゃぼん、
と読ませる自由さで
昼下がり二人はえたーなる

池のある家で
あなたを飼わなきゃだ
月を溶かしたプールでもいい

マネキンを担いで川へ
ほら光は春だけど
まだ冷たいでしょう

雷鳴が
ハッピーエンドを連れてくる
映画を見つけるために今夜も

うたた寝の
あなたばかりが眩しくて
ゆるくぶつける睦月のボート

もみの木よ
ちいさくはやく揺れなさい
澱んだ銀河を磨かなければ

泣き顔に見惚れていれば
右利きのあなたに刺しやすい左胸

しんしんきえい
呟けば遠くから聞こえるあれは
雪の絶叫

神様の歯並び甘いとこがすき
リアス海岸なぞって進む

夕立に駅は打たれて
浴槽で孵るおもちゃの
つやめきを持つ

来世
おまえの網膜になり
ひかるものはぜんぶ
人質として抱くから

計算をするなら音が鳴るべきで
その点わたしの彼氏はすごい

東京タワーを撮る人
みんな仰け反って
とどめの春風を待っている

生きている薔薇が描かれた
セーターじゃなきゃ嫌
土まみれの根を背負わせて

品川のトイレは神話
チョコモナカジャンボで
止血するひとがいて

いちご狩るわたしは本気
ぺたんこの靴で運命みたく近づく

海の家よりも家だね
ゲレンデの食堂に靴下のまぶしさ

九回の裏でようやく声が出る
ぼくらいつまで足りない楽器

素直さが武器なら
すごい刃渡りの剣を空振る
星が怯える

地下よりもあかるい夜に地下鉄を
三駅乗り過ごして気がつく

骨折の手術の話をしていたら
むねに浮かんでくるはんだこて

街は火に
床屋のくまはヘルニアに
きみは天の川に気をつけて

図書館の詩集
ドレスを剥ぎ取られ
八月はことばがよく焼ける

食べていいフルーツなのか
分からずにティーだけ啜る
都市とは覚悟

ばたん、きう。
あなたはどうせ来ないのに
そんな顔して深爪を見る

救世主欲しくはなくてなりたくて
いつでもばらまける飴がある

これが最後の停止線
雷鳴がクロスバイクを特別にする

親子丼とは親殺し子も殺し
わたしは真昼の切っ先に立つ