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汗ばむ腕に羽虫はひっついたまま
生きているのか、死んでいるのか

奥行きを欠いた青空から
真っ暗な海水と
内臓模様の星々を
引き摺り出してやる

天気雨のあとの街は
レタスみたいだから
空が緑色に見えたっていいだろう

以下、深夜の鏡に映ったもの
黒目
肌荒れ
変顔
空腹

晩春を荼毘に付す
夢の中でもあなたはダルシム使い

枝分かれの透き間に光が満ちる
私は赤みを帯びた影である

海よ
俺が悪かった
だから
俺の意気地なさを
元の形で返してくれ

君が僕をきみと呼ぶ
君のきみに僕は囚われる
僕は時々
君をお前と呼びたくなる

見えないように縫いつけて
そのまま消えて
あなたは銀の針と似ているから

言葉が意味をくわえて戻ってきた
いのちよりも心臓を急かす
言葉の狩猟本能だ

夜に散歩
エイになった気分だ
砂の上すべって
尾を引く
線を引く

三月十四日
七万回目の七に到達
ガガーリンのように
小数点を眺めていた

ベランダの花に
彼氏ができたかもしれなくて
洗濯物と昼の月が青白い

ざらざらな貝殻の
優しい白亜を確かめたら
午前のうちに帰ってしまおうか

匙加減一つで
あなたの寵愛をぶち壊す
私は一人
花曇りの朝

たんぽぽのわたげ
とんでったけど
お前はどうするの

軋む
昨日と今日は
ただ一つになりたいから
滲む血が不可算を知らしめても

美少女フィギュアに
作り笑いを見せてから
僕は色彩だけが棲む森へ消える

一秒で一秒ぶん老けて
一年で一つずつ
夜空の星が見えなくなる

バターを切り分ける
パンに塗る
バターの残りを冷蔵庫にしまう
すこし泣く

黄昏も一つの遊びでしょうと
指のささくれ
葦のさざめく
河岸に立つ鷺の物真似

かわいいあなたは
花への水やりという罰を
受け入れた罪に問われています

しつりしつり
雨の糸が
たばこの煙を撃ち落とす
しつりしつり
雨が長い

椅子に座る
芸術の海と工学の砂浜を
蝶番でむすぶ蛤である

私は有名になりたい
君の娘が君の書斎で一瞥した
あの本の背表紙になりたい

手で隠す
なんでもあるんだと言いたげな
夜のコンビニエンスストア

昔の僕に会いに行く
まずは抱きしめたいので
護身用の拳銃は隠しておく

豆腐に醤油をかけすぎても
プラトニックな愛と
歓びを
手放そうとは思わない

いつか行くよ青森県
なんの縁もないけれど
僕の言葉がそっちに帰ったらしい

朝焼けに
鮭の切り身と通信せよ
暗号は塩気
波形はベーリングの潮へ