もっと青い果てがある、 と囁かれ 朧夜のくじらが眼をひらく
秋と数字の媒体として立ちつくす 古本市に消えそうなひと
ながい夢 虚像の胸を撃つたびに ポインセチアに冷めてゆく赤
月を研ぐ あなたのための遊園地
うっとりと躑躅に迫る 夕闇へ 音なくいれかわる双生児
春の月だけが わたしについてきて ずっとくやしい花いちもんめ
リゾットは夢のしろさに ふくらんで 秋きららかに眼を耳をゆく
気をつけて ゼリーのなかは白昼夢
傘のない来世ひろーい きんぴかの 鰯の群れにさらわれにゆく
あこがれは へびつかい座の手に落ちて ときおり戦わせるカトラリー
かきあつめた硝子細胞 さらさらと目がうまれたら 北の砂場へ
なんだろう 鎧をつけてしまったの 饂飩をそう読めるのと同じ
月は檻 うまれなかったアルビノの けものを一羽のこらず抱いて
かき氷くずしてゆけば 夕闇に こどもの増える 甘いみずうみ
しっとりとあまいあぶらを 垂らしつつ 茎は鋏によわく抗う
ワンピース脱ぎ捨てるとき いきものの 骨格あらわなる一人部屋
心拍を枕のうらに聞きながら 夢の羽化まで遠いくらやみ
夏に眼があるならうすい瞼たち ひらいてとじて翡翠が飛ぶ
くだものを舌で潰してまじないを あなたはわたしだけの無人島
吐露という行為が むずかしいひとへ キャロットラペを甘く仕立てる
ため息を縫いとめて夜、 憐憫は 百合のこどもとなってふくらむ
かるがると 運び込まれる月や椅子 そういう失いかたを 何度も
鱗粉をくぐった指はもどらない わたしの夢へ泣きにくる人
ゆっくりと繊維に変わる 夕焼けを背に もつれあう蝶々たちは
あやまちはあやまちのまま 花柘榴 みるみる象の舌をあふれて
生返事にあふれる日々の だし巻きの 余生のような黄色がきれい
欲しかったものは 輪郭から消える アップルパイに盛りあがる傷
洗われぬ鉢として立つ ぎんいろの 大きな種をくれるんでしょう
真夜中のアクアリウムを歩くよう ひとり怒りをしずめるときは
生まれた日のあなたに 金糸をめぐらせて 世界はすこし霞むのでした
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