立体の夢が怖くて 歯をあてた手首の跡を星に喩える
過去はいつ燃やしてもいい 瓶詰めの アプリコットの蓋にあてる火
眼裏の暗がりへ火を呼び寄せて 夢を灯している冬の午後
それぞれに過ごす日曜日の朝に 透きとおるまで冬瓜を煮る
とじてゆく 夜をあなたがこじ開けて いま国境を跨いだ機体
花束を消極的な比喩として となりでねむる夜にほどいた
ここに死はあるかもしれず あなたからもらった鍵が ずっと冷たい
うまれつき、 とこぼれる声のやわらかく あなたの受胎以前にふれる
追熟のゆきすぎた実を放置する そういうふうに傷つけていた
寄り合った房をはなれたひと粒の 葡萄 あなたは早熟だった
書くことは火を渡すこと心には わたしのための蝋燭がある
眠たさとたたかわないで眠る日の ナイフを離すようにひらく手
真昼間に目を閉じるとき 透きとおる夜の布だとおもう瞼は
ひとつだけ 明かりをつけたまま眠る ふれたい、という意訳はしずか
裏切りをゆるす路程に蝋燭を、 あるいはながい夏休みを
この頬をよせる身体をうしなって わたしは海へ放たれた蝶
線だったぼくらは点に戻るから 結ばずにおく北斗七星
いもうとになったことしかない 星は風が吹いてもゆれたりしない
つなぎたいと言って繋ぐ手 未来ではなくて来世の ことを話して
奪いたいわけではないと 言うひとに奪われている 夜とか骨を
街じゅうの影をあつめて さよならの 記憶をいちばん眩くさせる
狐雨 嘘ににおいのあることを 知らないひとの枕を干せば
やさしさに どうしても寄りかかること 屈光性をもつ花だろう
まだ固い桃のもも色 約束を おそれていないひとの目の色
たいていは嘘なのだから言葉など 白紙にちかい地図とおなじで
核心にとおい会話をつもらせる わたしを守る堤防として
さいごまで あなたはとおい国だった 寝言にだけ方言をのこして
挨拶のように別れを告げるとき 渋谷に雨は降ったりしない
ベランダは月の容れもの ありふれた口約束ほど ひかってしまう
家じゅうの窓を開いて きみのいた夜の温度を失ってゆく
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