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行列に並んで疲れた日は
画面でサンバを流しながら
能楽を聴く贅沢が許される

満員電車の中にいるけど

ひとり

相談相手は座頭鯨
と決めていた
だが
蟹が嫉妬している
ようなので相談はしない

冥王星にりんご飴を
忘れてきたけれど
行き方を
覚えてないので
取りに戻れない

私は
頭と顔と目と口と
胃腸と根性と性格が
悪いだけで
決して悪い人間ではない

神妙な面持ちで
リビングの中央で
厳かに粛々と
土俵入りを行う
妻に後光が差す

縄文時代を
生きている我が祖先

雨に打たれながら
坂道を駆けて行く

お悔やみ欄で
思い出を見た瞬間
長編映画の主人公に
なっていた

雪の華に
優しく抱かれたら
凍えた

別れのシュークリームを
駅前道路の真ん中に
置くなんて
粋過ぎてごめんなさい

もしも今すぐ
大空を舞えるなら
たとえ
催したとしても
翔ぶのは止めない

俺の価値が
高騰している事実を
俺だけが知っている
という優越感で
口元が緩む

駄々をこねて
いるんじゃなくて
踊っているらしい

音楽室で
懸命にリコーダーを
吹いていたら
顰めっ面した人達に
睨まれていた

頭髪を
真っ赤っ赤に染めても
赤い口髭も紅い顎髭も
生えてはこないという
憂鬱

鬱蒼とした森を
照らしてるのは
二等辺三角形の
月

遠くを見る目と
遠くを聞く耳と
遠くを知る心と
遠くを行く足が
あれば良い

図書館には本がある
美術館には絵がある

我が家には私がいる

真暗闇の中
ページを捲りながら
遠距離恋愛の物語を
紡いでゆく

日がな一日
柱時計の振り子を
見ていられた頃に
戻りたいと思う
光り差す黎明

己はペガサス
ではなく駄馬
だと覚った後に
眺める虹は
限りなく美しい

月が凄く大きいから
深く考察しないで
浅く妄想することに
終始した　秋夜

未来の鋭利な棘が
降り注ぐ夜は
過去というカーテンで
身を守るしか術がない

嘘偽りのない話なんだ
ミニスカートを
翻していたんだ
かつては　老妻は

山裾の木造の駅を
目の当たりにした時
白黒だった想い出が
総天然色に変わった

鋸鍬形に会いたくて
陽も明けやらぬ中
土手道を走ったのは
　本物の僕

虫の鳴く深更
不気味でしかなかった
祖父が愛した能面に
慈愛を覚えた

良い事から悪い事を引くと
事象はマイナスなのに
愛しいんだよね　生涯

美しい夕陽を
振り返りもせず
畦道を駆け抜けた
十歳の秋

微笑みながら
振り向いた貴女に
一目惚れした
　昔の話