過去の作品検索

君の視覚を断つ
瞼の裏の
春風運ぶ綿毛のような
指先に染み入る
涙の温度

乾きかけの傷に
白く染まった
枯葉の群れが
ひだまりを纏い
降り注ぐ

子を見送り
久しい時間に
消したテレビ
が映し出す
玩具の温もり

雨音彩る
一日の終わりに
書き留めた
日向の椿に捧ぐ
色のない傘

加湿器醸す
雲海の中に
滲んでいく
リボンの虹

君はまだ
頬撫でる手の感触を
未来に携えられない
手繰り寄せたい
母との記憶

夜明け前
キッチンに消える
冬の息

緑の鎌
薄紅のシャツに溺れた
無人島のような
ベランダの箱庭

碧い傘
を畳む朝
アスファルトに咲く
水たまりの雲

人生は
誰の目にもくれない
レコーダー
再生しては消えていく
皮膚を透過して

人気のない納屋
空っぽの容れ物
一筋の茜途切れ
蟠る虚空の残渣

鳥肌で知った
あ、終わったのだと
雨音の夜の
角部屋の花

口は
どうしてこんなにも醜くなれる？
誰も皆
喉に仏が
いるのでしょうに

月よ
月よ
君は
そうしていつも
詩書きの心を拐かす

水道の水
井戸の水
こちらを選ぶ
ね
奥ゆかしいもの

細胞膜を突き破る
ウイルスのような
郵便受けの
チラシ一枚

見送った帰路
交差点の先
キッチンに佇む
キウイの皮を剥く
わたし

濡れる手指
ヌグイキイレナイ
ヌグイキイレナイ
黒い足跡

紫色のインク
指紋に沿って
古代の日暮れ
に惑う河水

雨滴の窓に映じる
トーストのバター
歪む疵
に怯える卵の朝