そのやわい唇だろう花の雨
吐く息のどこから水でどこまでが 煙草だろうか冬のはじめに
あかねさす光のほろび予報士が 気象画面に雲をかぶせて
歩いてきた距離も見えない猛吹雪 いつか謝りたいことがある
雑談が果てて氷のとける音
空き瓶のひかり漂う春の池
自転車が雪の山からはみ出てる ぜんぶ分かろうとしなくていいよ
総毛立つ震えのなかで唇を むすべば結ぶほどに血の味
バスは私を震えの中に閉じこめて どれだけ眩しい朝も走った
家という家のストーブを動かして 冬に炎はもっとも盛る
三叉路の行かない方へ石を蹴る どうして悲しくないこの夕べ
早産であったと知れば 透明に老いる心地がする誕生日
スケートを小学校で習いつつ あなたは道の氷に転ぶ
びっしりと鳩が歩道にひしめいて ここから進むことができない
血液がひどく体温であることの 眠たさに手を洗いつづける
円周率のつづく無限よ惜しみなく ピアスホールに静寂が満ちて
ない場所をエデンと呼んで 洗脳は言葉ではなく舌でするもの
言うことを聞いてやらない はつ冬の雲雀が落ちてくる枯野原
標的が決められるのは偶然で 近づく誰のためのサイレン
君だけが統べる領地に踏み入って 思い出すのは肝の冷え方
初雪に目を覚まされて一羽ずつ 声を上げだす鴉の群れは
涙こぼれるように降りだす雪の下 あなたがいないって本当なのか
軸足を右と信じて抱きとめた 全体重の全速力を
軽いとは重さをもつということで みるみる雪に潰れる家屋
記憶で顔は鼻や睫毛をうしなって その間隙をうめていく雪
失えば記憶のなかでその人の 心にもない美点が光る
オアシスのようにスタバは 配されてものの見事にラテを頂く
温室は花を店へと絶え間なく もたらして棺桶をこぼれた
死者の死者らしい粧い私にも 授けてよ、幽霊の才能
肋骨を箸で暴いてゆきながら 焼けのこらない心臓はここ
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