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ただ嬉しくて
自転車のペダル漕いだ
下校３kmの
二人の夕焼け

天気を心配するのは
雲の下の世界だけだ
成層圏では
人は多少哲学的になる

埋められるのを待つ頁
〈想いの深さ〉
手に取られるのを待つ本
〈うつろな眼〉

掛けられるのを待つ電話
〈語らぬ口〉
鳴るのを待つ電話
〈見つめる瞳〉

寡黙なピアニスト
〈饒舌な指〉
弾かれるのを待つピアノ
〈動かぬ心〉

もう駅名は無く
残された時間の方を指して
↓が風に揺れている
アッチなんだと

時は加速を増し
通り過ぎるけれど
心は忘れ物の籠の中
来る筈無い便りを待つ

忘れてしまいたい事は忘れられず

永く私の心を締めつける

大切なものは
失われ
どうでもいいものばかりが
残される

〈青春との訣別〉
あぁこころ優しき日々よ
今はおまえが懐かしい

若さは永遠なのだ
精神は自ら老いを知らず
あの日あの時が輝きを増す

愛しき自分を
決して抱きしめえぬ彼を
追憶の彼方で愛撫する
お前が好きなんだ

自分が自分であることで
輝いていた
その愛しき自分を
追憶の彼方で愛撫する

自分に嘘をついてばかり来たから
自分で自分が信じられない
その私が私を騙す

自己の中の超越的な他者性の発現
私は人間であるという
ひとつの妄想

不確かな君
その一つのバランスで
かろうじて平衡を保つ
私の大宇宙

他を寄せ付けぬ透明なニヒリズム
イナニテに放つ絶唱のオーガズム

想い出はいつだって美しい
なぜならそれは
自己愛の本能が呼び覚ますからだ

夏は倒錯した酸塊のすっぱさ
荊の葉陰で握りしめた君の手の
生命線の冷たさよ

根源的な夜に私は
漆黒の暁に私は
そして、真っ白の
冗舌なる行間に
わたくしは

犬に名など必要ないと
思っていたが
呼んでもやれない
家出しちまった私の犬よ

そして、一篇の詩を生むために
私は、わたしを処刑する

一篇の詩を生むために
こうして私は
今日も苦役を享受する

一篇の詩を生むために
あの気まぐれで思いがけない
恩寵を葬り去る

一篇の詩を生むために
その疑いを知らぬ瞳に
一滴のアルシランを添加する

一篇の詩を生むために
アレクサンドリアの書架より
薔薇の名をひとつ掠奪する

年若い晩年
「今を生きろ」と
どこからか聞こえた定言的命令

母の胎内追い出された時は
全てを引き受ける気などなくて
大泣きしたが

全てを引き受ける覚悟を持った時
私は生まれた
自らを産んだのだ

勢い込んで参戦の時には
思いもしなかったが
今になって
生きる意味を考える