亀のため飼育係になった日の 翌日、亀はどこかへ消えた
けんけんぱしているうちに凧の糸 切れてわたしは平面に浮く
体からずるりと中身抜けだして 眩しいほうに転がっていく
隣人のわずかに響く話し声 海王星の裏まで続く
親指の爪ほどの骨、集めつつ 銀河同士の爆発のなか
生き物は目玉をべこりへこませて おんなじ顔で宇宙へと去る
鼻先の霜を拭った。 焼かれるとしても 寒そうなのは悲しい。
線香の春っぽい灰かきわける 神様の手に抱かれるあの子
くびだけの蘭を並べて つやつやとした 黒い眼に映るわたしは
死ねば物。陶器のつめたさを 体に宿して息、少しだけ断つ
真夜中の空を一瞬だけ光るような 死が骨壷へと落ちる
この人はたぶんいい人、古本の 名前の最後の跳ねがひかえめ
あのときの海に一番近い場所へ 行くためだけの旅行雑誌
ドレミファソラシドは すべて音であり かつて酸素の濃すぎた地球
折り紙の黄色をちぎって月にする 金色は引き出しへとしまう
たましいをさらって貝に包む 波の温度は私の体温で
今日の夜、透明になる 水槽の光にそって 泳いでみたり
この中で、いちばん 色の濃い花をください 夏の終わりの向日葵
いつかまた会えるのでしょう 水星が日没直後に見えるように
月は飽きることなく曲線になる アルルの部屋のベッドを真似て
コンビニの二十四時間営業の ちいさい錆びを食べている鵺
淋しさにも温かさがありそれは ミルクパンから生まれる蒸気
とくべつはいつだってある 目の中に等間隔でかがやく昨日
柔らかな糸くずになれればいいな 真白い布で、できた天国
素数ずつ割れてく世界の あいだから頬のほてりを 追いかけてゆく
濁点をつけて助けを呼ぶ蝉に 黙れと言うには悩ましい部屋
厨房の排水溝よりお手紙です 骨の残りはここにあります
昨日より一畳広い心から シール手に取る百円ショップ
しっかりと生きたいだけなの 洗い物、早寝早起き 恋とか全部
ぼんやりと憧れだけで生きている 同じところを読み返したり
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