わたしたち、 まりものように着ぶくれて 渡り廊下をさぶさぶと行く
夕映えに ひかる両手を差し出して 白紙のままの進路希望書
角部屋に 拾われたての猫といて 互いのひげを見せあっている
海をわたる 鳥はひかりの群れとなり 国のさかいを触れずにまたぐ
天花粉 はたいてやれば へむへむと 口をむずむずさせるいもうと
挟まれた しおりに眠るなでしこを そっと起こして続きをめくる
そもそも、の話をすれば もそもそになるトーストを じゃくっと齧る
近寄れば するどい夜の匂いして 君をただいまごと抱きしめる
ぐじぐじになった 卵を引き上げて キッチンの火は裏切らない火
ぽほぽほと 傘をめざして落ちてくる 雪の羽音のような溶けかた
のらねこはすぴゃあと眠る 日だまりを 四肢のすみずみまで巡らせて
日曜のつづきが欲しい ひかり差す海の色した カーテン開けて
正座して母と向き合う 言い訳を ドミノ倒しのように並べて
低く ひくく 花は湖面に近付いて 子を成すための器官のはなし
路地裏の闇を 両手でひとつかみして こね上げたような黒猫
暖房のかぜは ぼあっ と吹いてきて 鳥がみどりの尾を揺らしだす
南天の花が 腕からこぼれ出す どこへ行っても裏切りだった
母を呼ぶ声で 仔犬が鳴いていて ペットショップへうすぐらい風
千枚の窓を わたしは持っていて ときおりそれを割ったりもする
まだ嘘もほんともなくて おひるねの 園児へ割れるフウセンカズラ
より深くことばの海へ 十七の ぼくはうろこをなびかせながら
ポプラの木みたいに 窓を抱いている 校舎
噛み尽くすガムから 雨の味がして 吐いたまんまのかたちでひかる
ふさがった傷に あなたが触れてきて ただしい夜のかなしみを知る
おだやかな暮らしの中で あきらめた夢が 犬歯を尖らせている
ラムネ瓶越しに 世界へふれながら ころんとちぢこまるがらす玉
さいぼうを ちぎる速度で吹いてくる ふゆの夜風に身を投げだして
わたし、って どう生きるのか知りたくて 過去をしっかり抱きしめてみる
家族ぶん並べておいた おむすびに ぱちぱちひかる塩のけっしょう
終バスの 空気はしんと重たくて 友にメールを返したりする
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