無意識にあなたが触れたこの傷が 校舎の隅で回復を待つ
黒魔術用に飼われる黒揚羽
冬の砂浜であなたに投げた合鍵の 反射がまぶしい別れ
行き先のわからない電車に乗って たんたかたんとあるく日曜
まっさらなノートに最初の文字を 書く瞬間 窓から見えた初雪
美しいことばを使うとき ぼくのこころもきっと美しいとき
錆びついた鉄棒の味みたいだね 春に寄り添う海沿いの風
音速で駆けるさよなら 僕たちは 綺麗だねって雪を見ていた
早春の川に流れる白線の 色とりどりの僕らの未来
いもうとに勉強机を譲るとき 大好きだったシールをはがす
もう少し力を抜いてごらん ほら 食用菊をほぐす指先
Tシャツを何度たたんでみても冬
ソプラノが一直線にすすむ秋
割り箸をわれば片方だけが夏
あきらめのわるい人から春になる
ばさばさと出窓を叩く雨 夜に伸びた分だけ爪を切る朝
空がまた生まれ変わってゆく 君と雨ひと粒でしなる葉を見る
玄関に置かれた傘が乾くころ 大きくなっている泣きぼくろ
ばざーんとことばを川に流します 流れる川は腐らないので
もう捨ててしまえと声がする 母が出て行く前に残した手紙
今ここにある幸せとあの春の 選ばなかった道の その先
終電が終わったあとの 踏切の静けさに似た後悔の念
ああ夜よ りんりんと降るこの雨よ 残響のように泣かないでくれ
永遠に来ないあしたを待っている さみしいごっこをしているぼくら
くしゃくしゃと洗うレタスの 音で朝
進路指導室ですんすん聞く説教
噴水が急にとまって 僕たちは視線の先を定められない
あたらしく買った冷蔵庫のひかり まぶしい朝の越して来た街
目を閉じて春を感じる 約束は助走をとったことばの弾力
世界のどこかで戦争がはじまって それでも僕は月曜がきらい
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