祖母に手をひかれて川を渡るとき 初めて 命の不在に気付く
卵割るときの力の入れ具合 子を叱るとき思い出すこと
くっきりと世界がひかりに 包まれる 卵の殻の白さがこわい
重力を帯びて傾く冬の空
ぼってりとした夜 非常階段で 膝を抱えて語る生い立ち
リストラを言えずに暮らす帰り花
捨てられた傘が無数に積まれてる 放送禁止用語みたいに
色褪せたデニムのような空 澄んだ冬の密度が押し寄せてくる
ふつうという言葉の 暮らし ふつうという 言葉の恋をしてみたいだけ
この悲しみに理由はないと言う 君のハの字の眉が鈍角すぎて
遠い目をしながら母が見る 川の色はひときわ濃くなるばかり
各停の吊り革の冷たさが冬
しばらくはひとりでいたい春の風
教会の鐘が遠くで鳴っている みたいに チューリップが咲いている
音の無い夜はさみしい 寝ることに覚悟がいる真冬の病室
冬の眼差しが路面を凍らせる しあわせなふりして生きてきた
ふと通りかかった花屋で買った花 にもこの孤独は影を落として
平穏な日常のひとコマ ふいに 花瓶の水を流す切なさ
ひとりでも生きていける と思ってた 古いお皿を重ねたりして
好きなままで嫌いになった ハンカチの 綺麗な刺繍の傷跡みたい
一枚の紙を何度か折りたたむ 小鳥が飛び立つひかりの朝に
六十年前の詩集の紙の香を 嗅ぎながら螺旋階段のぼる
指先についた油をこする 制服のスカートの寿命が縮む
白い雪が屋根で朝日を浴びている お皿で溶けるバニラが綺麗
ご自由にお取り下さい ご自由にお取り下さい 取れるものなら
暗闇では静寂がうるさい
はつゆきの白さ、冷たさ はかなさが ときどき君とシンクロしてる
二秒だけ どちらも赤信号になる時差が 恋だと あなたは言った
夕焼けにひとり叫べど返事なく サドルだけ無い赤いじてんしゃ
辻褄の合わないこんな夜だから キャベツを微塵切りにして泣く
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