坂道をノーブレーキで下る時 耳の輪郭が少し透ける
もう少し深いところで沈みたい ボンタンアメのオブラート剥く
もう雨を避けては走れないらしい 弟が折り畳み傘を買ってた
春の朝うしろ頭に寝癖咲く
亡き家を探して歩く婆ちゃんの カバンの中身を誰も知らない
小夜中に指先分だけ窓を開け 春の鼻先を撫でている
切れかけの蛍光灯は淡々と 誰かにモールス信号を送る
制服のセーラーカラーは翼だと 信じてどこかへ飛んで行きたい
一本のマッチをカシュッと擦る ようにあの時好きと言えば よかった
現からだんだん切り離されてゆく 包丁を研ぐ君の横顔
まず僕が。 それから弟、 最後には妹が いなくなる子ども部屋
食パン二枚賞味期限が今日までで 分厚いサンドイッチを食べる
窓ガラスに当たってほどける 綿雪のひとつひとつに 名前をつける
名は『竜田』と言うのだそうだ 三階に住む薄茶色の トイプードルは
白い筋を取り除いたら気まずげに 手のひらの上で転がるみかん
溜池を横切るたぶん鯉だろう 何かの気配と麩菓子分け合う
先生が茶菓子を解説する声に しゅんしゅん相槌をうつ茶釜
ピーラーで大根をひらひらにして 天使の羽を作るお仕事
昨晩の天気予報の答え合わせ している一人部屋の病室
日曜の夜は帰りたくて 堪らなくなる (いったいどこに帰るの)
午後五時のチャイムが鳴って ヒーローも悪役もいなくなった 公園
枯木星ここにいるよと手を振って
鉛筆を小刀で尖らせる時の緊張は 恋と少し似ている
歯ブラシの三本セットを 買ったのでもう少しだけ 生きていきます
星屑を今日だけまぶたの上に飼う
ばあちゃんの足の小指が薬指 よりも長いと知った病室
おかえりの代わりと言っては なんだけど茶碗山盛りにするご飯
舐めかけの飴玉みたいな太陽が ゆるゆる海に溶かされていく
弟が弟として生きていく為に 私はこの先も姉
山下と話す田辺の声につく♯が 僕の失恋だった
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